表面に黒い焦げ目があるほど、パステル・デ・ナタは美味しく焼き上がっています。
パステル・デ・ナタは、18世紀のリスボンにあるジェロニモス修道院で生まれたと言われています。当時、修道士たちは修道服やシーツのアイロンがけに大量の卵白を糊(のり)として使っていました。すると、当然ながら卵黄がどっさりと余ってしまいます。「この卵黄を無駄にしないためにどうするか」という知恵から生まれたのが、このとろとろのカスタードタルトなのです。
つまり「もったいない精神」が生んだお菓子ということですね。
1837年には、現在もリスボンのベレン地区で大行列が続く名店「パステイス・デ・ベレン(Pastéis de Belém)」が創業し、修道院から受け継いだレシピを今も門外不出の秘伝として守り続けています。この一軒のお店から、世界中にパステル・デ・ナタの美味しさが広まったといっても過言ではありません。
その後、ポルトガルの植民地だったマカオを訪れたイギリス人薬剤師アンドリュー・ストウ氏がパステル・デ・ナタに惚れ込み、1989年にマカオのコロアン島で「ロード・ストウズ・ベーカリー」を開業します。これがアジア版「エッグタルト」として爆発的に広まり、日本でも1999年ごろに一大ブームを巻き起こしました。
| 比較項目 | パステル・デ・ナタ(ポルトガル) | エッグタルト(香港・マカオ) |
|---|---|---|
| 生地の種類 | 層の薄いサクサクのパイ生地 | パイ生地またはクッキー生地 |
| 焼き方 | 高温(250〜400℃)で焦げ目をつける | 比較的低温で焦げ目が少ない |
| カスタードの風味 | 卵黄多め・濃厚・甘め | 卵の風味は穏やか・甘さ控えめ |
| 香りづけ | シナモン+レモンの皮 | バニラ系が多い |
パステル・デ・ナタの最大の特徴は、表面に黒い焦げ目がしっかりついていること。これは「焦がしすぎ」ではなく、本場の焼き上がりの証です。この焦げ目にこそ、香ばしさと風味の深みが凝縮されています。
参考:パステル・デ・ナタの歴史と起源について詳しく解説されています。
ポルトガルの【パステル・デ・ナタ】ってどんなお菓子?修道院で誕生した歴史 - kimini.online
パステル・デ・ナタを美味しく仕上げるには、材料の選び方から丁寧に押さえておく必要があります。まずは「カスタード液」と「パイ生地」の2パートに分けて材料を確認しましょう。
【カスタード液(6〜8個分)】
【パイ生地・仕上げ】
カスタードに使う卵は「卵黄のみ」が原則です。卵白を一緒に使うと、焼いたときに白身のタンパク質が固まってクリームの食感が粗くなり、なめらかさが失われてしまいます。卵黄だけを使うことで、あの独特のとろりとした濃厚な口当たりが生まれます。これが基本です。
道具については、型の選び方も重要なポイントです。日本でよく使われるマフィン型や花びら状に凹凸のあるタルト型ではなく、表面がつるんとした深めの丸い型が本場スタイルに近くなります。高温で焼くため、シリコン製か金属製の型がおすすめです。型の直径はおよそ7cm(ちょうど卵1個をおさめられるくらいのサイズ感)が標準です。
デジタルスケールで分量を正確に計ることも忘れないでください。カスタードのとろみ具合は、薄力粉と牛乳の比率が数グラム違うだけで大きく変わります。
カスタードクリームは、パステル・デ・ナタの主役です。失敗しがちなのは「火を入れすぎてカスタードが固まりすぎる」か「卵黄を熱いうちに混ぜて卵が固まる」かのどちらかです。手順をひとつひとつ確認していきましょう。
【ステップ1:シロップを作る】
鍋に水40ml、グラニュー糖80g、シナモンスティック1本、レモンの皮(すりおろし)1/2個分を入れ、強火にかけます。沸騰したらそのまま1分間加熱し、少しとろみがついたら火を止めます。シナモンとレモンの香りをゆっくり引き出すため、そのまま室温で粗熱が取れるまで休ませます。
【ステップ2:薄力粉ベースを作る】
ボウルに薄力粉10gをふるい入れ、牛乳20mlを少しずつ加えながら泡立て器でよく混ぜます。ダマが残りやすい工程なので、丁寧に混ぜることが大切です。
【ステップ3:牛乳と合わせてとろみをつける】
別の鍋に牛乳120mlを入れ、ステップ2の薄力粉液を加えて中火で加熱します。ゴムベラで鍋底をこするように絶えず混ぜながら加熱し、とろみがついてきたらすぐに火から下ろします。ゴムベラを動かしたとき鍋底が一瞬見えるくらいのゆるいとろみがベストです。
【ステップ4:シロップと合わせる】
ステップ3のベースにシロップを加え、泡立て器でなめらかになるまで混ぜます。その後、一度ざるでこして、レモンの皮やシナモンを取り除きます。口当たりがぐっとなめらかになります。
【ステップ5:卵黄を加える】
粗熱が取れてから(触れるくらいの温度になってから)卵黄を1個ずつ加え、その都度よく混ぜます。熱いうちに卵黄を加えると、卵黄が熱で固まって粒々になってしまいます。粗熱を取ってから加えるのが条件です。
カスタードが完成したら、ラップをカスタードの表面に密着させて冷まします。表面が乾くと膜が張って、なめらかさが損なわれてしまいます。これは使えそうです。
参考:本格プロ仕様レシピの詳細な工程と材料比率が確認できます。
ポルトガル人シェフ直伝!一口で恋するパステル デ ナタ(エッグタルト)- Castela do Paulo
パステル・デ・ナタの外皮の食感を左右するのが、このパイ生地の成形工程です。市販の冷凍パイシートを使えば、ほとんどの手間は省けます。ただし、ただ切って型に敷くだけでは、本場のサクサク感は出ません。「渦巻き状に巻いて、断面を上にして型に置く」という一手間が、すべてを変えます。
渦巻き成形の手順(冷凍パイシート使用の場合)
「断面を上にする」のはなぜでしょうか?パイシートを巻いたことで、断面には複数の層が渦を巻いています。この断面が上を向いていることで、オーブン内の熱が層と層の間の空気を押し広げ、焼いたときにサクサクと層が剥がれるような食感が生まれます。断面を下にしてしまうと、この効果が得られません。意外ですね。
型への生地の伸ばし方は、「中央をぐっと押してへこませる→両手の親指で外へ外へと押し広げる」という動作を繰り返します。指を水で濡らすことで生地が指にくっつきにくくなり、スムーズに作業できます。作業中に生地が柔らかくなってきたら、一度型ごと冷蔵庫で10分冷やしてから再開しましょう。
ここまで来たら、あとは焼くだけです。この最後の工程がパステル・デ・ナタ全体の完成度を決めます。焼きの失敗は「温度が足りない」ことがほとんどです。ここをしっかり押さえておきましょう。
【焼き上げの手順】
まず、オーブンを250〜260℃に予熱します。予熱なしで焼き始めると、最初の数分間に温度が安定せず、パイ生地がうまく層を作れません。予熱は必須です。
カスタード液を型の8分目まで注ぎます。欲張って入れすぎると、焼いたときにカスタードが膨らんで溢れてしまいます。8分目が原則です。
250〜260℃のオーブンで約15〜20分焼きます。焼き時間はオーブンの機種によって異なるため、15分経ったら様子を確認してください。表面に黒い焦げ目がまだらにつくのが、本場の仕上がりの目安です。きつね色ではなく、しっかりとした黒い焦げ目を目指してください。
なぜ250℃以上の高温が必要なのでしょうか?本場ポルトガルのパン屋や専門店では350〜400℃の業務用オーブンで焼き上げます。この高温が、パイ生地の層を一気に膨らませて外をカリッとさせながら、中のカスタードはとろとろのまま残す絶妙な仕上がりをつくり出します。家庭用オーブンで最高温度の260℃前後まで上げることが、本場に最も近づける方法です。
【仕上げの食べ方】
焼きたてをすぐ食べるのがベストです。熱々の状態でシナモンパウダーと粉砂糖をふりかけるのが、本場ポルトガルの定番の食べ方です。ポルトガルではエスプレッソとセットで楽しむのが日常的なスタイルです。
【保存と焼き直しについて】
焼き上がったパステル・デ・ナタは、冷凍保存も可能です。粗熱が取れたら冷凍用保存袋に入れて冷凍し、食べるときは自然解凍後にトースターで2〜3分焼き直すと、サクサク感が復活します。焼き直す場合は200℃のトースターで様子を見ながら加熱すると良いでしょう。
参考:冷凍パイシートを使ったお手軽レシピと、オーブンの温度別の焼き上がりの違いがわかります。
おうちで簡単ポルトガル料理【パステル・デ・ナタ】(エッグタルト)の作り方 - uco-trip.com
せっかく手間をかけて作ったのに「カスタードが固まりすぎた」「生地がサクサクにならなかった」という悩みは多くの方が経験します。よくある失敗のパターンとその対処法を確認しておきましょう。
❌ 失敗① 卵黄を熱いカスタードに直接加えてしまう
カスタード液が熱いうちに卵黄を加えると、卵黄が熱で固まって小さな粒々が生まれ、なめらかさが失われます。必ず触れるくらいの温度(40℃以下)まで冷ましてから加えることが大切です。卵黄は1個ずつ加えてその都度よく混ぜるのが基本です。
❌ 失敗② カスタードを入れすぎる
型の縁いっぱいまでカスタードを注ぐと、焼く過程で膨らんで溢れ出してしまいます。「8分目まで」を守るだけで、このトラブルは防げます。注ぎ終わったあとで気泡が気になる場合は、竹串でさっと混ぜると表面がきれいに仕上がります。
❌ 失敗③ オーブンの温度が低すぎる
200℃以下で焼いてしまうと、パイ生地に焦げ目がつかず、サクサク感が出ません。また、カスタードが長時間かけてゆっくり加熱されることで固まりすぎてしまいます。家庭用オーブンの最高温度(多くは250〜260℃)で焼くのが大前提です。
❌ 失敗④ 冷凍パイシートを柔らかくしすぎる
解凍しすぎてべたべたになったパイシートは、成形時に生地がちぎれたり層がつぶれたりしてしまいます。「冷たいけれどすっと曲がる程度」の半解凍状態が作業に最も適しています。柔らかくなってきたら、迷わず冷蔵庫に戻してください。
❌ 失敗⑤ 型への生地が厚すぎる
底の生地が厚いと、高温で焼いても内側に火が通らず、生焼けのような仕上がりになります。特に底は薄く伸ばすことを意識してください。型の縁に向かって徐々に薄くなるよう伸ばすと、底から熱が入りやすくなります。しっかり薄くするのが条件です。
これらの5つを頭に入れておくだけで、初めてでも完成度がぐっと上がります。まず最初の1回は材料の分量を忠実に守り、手順をひとつずつ確認しながら作ることをおすすめします。慣れてきたら、砂糖の量を減らしたり、バニラを足したりとアレンジを楽しむ余地が広がります。
参考:本格パイ生地の作り方と、サクサクに焼くためのプロの理論・温度管理が詳しくまとめられています。
エッグタルトの本格再現レシピ|パステル・デ・ナタをサクサクに焼くプロの技 - jg-bakingstudio.com