ステロイドクリームを混ぜると、濃度が半分でも皮膚透過量が増えてしまいます。
乳化(エマルション)とは、本来混ざり合わない水と油を界面活性剤の力で安定的に分散させた状態のことです。o/w型(Oil in Water、水中油型)は水が「連続相=外側」となり、その中に油の微粒子が分散しています。w/o型(Water in Oil、油中水型)は逆に油が外側を占め、水の微粒子を内包している構造です。
どちらが外相かによって、製剤の性質はがらりと変わります。外相が水のo/w型は「水に近い」ため、さらっとして伸びやすく、水で洗い流せるのが特徴です。外相が油のw/o型は「油っぽい」ため、撥水性が高く、水分の蒸発を防ぐ閉塞効果に優れています。
つまり外相が何かで製剤の顔が決まります。
医療現場で扱う皮膚外用剤では、クリーム剤がこの乳化型に分類されます。日本薬局方においてクリーム剤は「皮膚に塗布する、水中油型または油中水型に乳化した半固形の製剤」と定義されており、o/wとw/oの両タイプが存在します 。軟膏剤と見た目が似ていても、乳化の有無・乳化タイプによって薬物動態が異なる点は、服薬指導の精度に直結します。 midori-hp.or(https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web19_7_04/)
| 項目 | o/w型(水中油型) | w/o型(油中水型) |
|---|---|---|
| 外相(連続相) | 水 | 油 |
| 内相(分散相) | 油滴 | 水滴 |
| 使用感 | さらっと、伸びやすい | べたつき感あり |
| 洗い流し | 水で流れる | 水をはじく |
| 閉塞効果 | 低い | 高い |
| 代表薬 | ヒルドイドクリーム® | 各種油性クリーム剤 |
乳化タイプの違いは「使用感」だけの話ではありません。薬物の皮膚透過性に大きく影響する点が、医療従事者として最も押さえるべきポイントです。
7.8倍という数字はかなりインパクトがあります。
さらに、o/w型とw/o型の間にも透過性の差があります。一般的に乳剤性基剤(o/w・w/o両タイプ)は薬物透過性が高いとされていますが、外相の性質の違いにより、脂溶性薬物ではw/o型の方が油親和性の高い角層へ移行しやすいとされる場面もあります 。油脂性基剤のステロイド軟膏とo/w型の保湿剤を1:1で混合した実験では、ステロイド濃度が半減しているにもかかわらず皮膚透過量が増加するという、直感に反するデータも得られています 。 shinwakai-min(https://www.shinwakai-min.com/kyoto2hp/oshirase/iryokatudo/di_news-pdf/di-no111-20100430.pdf)
これは混合により基剤の性質が変化し、油脂性基剤中のステロイドの皮膚移行に影響が出たためとされています。濃度が半分でも効果が強まる可能性があるということは、患者への説明や投与量の設定にも関わる重要な知識です。乳化タイプを把握した上で処方内容を確認する習慣が、より安全な薬物療法につながります。
現場で特に注意すべきなのが、乳化型クリームの混合処方です。これは失敗すると製剤としての機能を失うだけでなく、患者安全に直結するリスクがあります。
原則として、乳剤性基剤は混合により乳化が破壊されやすいため混合すべきではありません 。特にo/w型(水中油型)のクリームは、混合時に空気も混入しやすく不安定になります。乳化が破壊されると水の層が分離し、1日2回の指し入れ実験では1週間後に室温保存の全例で細菌汚染が検出されたという報告があります 。冷蔵庫保存でも半数に汚染が確認されています。 yakuzaic(https://yakuzaic.com/archives/4971)
細菌汚染は患者の皮膚感染リスクに直結します。
混合可否の一般的な目安として、同性質の基剤同士(油脂性同士、水溶性同士)は混合可とされることが多い一方、乳剤性基剤が絡む場合は「組み合わせによっては混合可」または「混合不可」の扱いになります 。特に注意が必要なのが以下のパターンです。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15104/ph.2023040015)
混合調整の依頼が来た際には、双方の基剤タイプを確認するのが原則です。「軟膏と書いてあるからo/w型ではない」とは言い切れない点にも注意が必要です。薬局方において「油中水型に乳化した親油性の製剤については油性クリーム剤と称することができる」とされており、製品名に「軟膏」と含まれていてもw/o型の乳剤性基剤である場合があります(例:ヒルドイドソフト軟膏=ヘパリン類似物質油性クリーム)。製品名だけで判断しないことが重要です。 midori-hp.or(https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web19_7_04/)
参考:外用薬の混合に関する詳細な判断基準(マルホ株式会社・医療従事者向け情報)
「なぜ同じ乳化でもo/w型とw/o型に分かれるのか」という疑問に答えるのが、HLB値(Hydrophile-Lipophile Balance=親水親油バランス)という概念です。
HLB値は0〜20のスケールで表され、数値が大きいほど親水性が高い界面活性剤を意味します 。一般に、HLB値が8〜18の高HLB乳化剤はo/w型(水中油型)エマルションを形成しやすく、HLB値が3〜6の低HLB乳化剤はw/o型(油中水型)を形成しやすいとされています 。HLB値が乳化タイプを決める、これが基本です。 sy-kogyo.co(https://www.sy-kogyo.co.jp/division/food-additives/posts/01/)
ざっくり言うと「水好きな乳化剤がo/w型を作る」というイメージです。
医療用外用剤においても、製剤設計時にHLB値の選定は非常に重要です。例えば油溶性のステロイドを配合する際、乳化をo/w型にするかw/o型にするかによって、配合時の溶解方法も変わります。油溶性薬剤を配合する場合は処方中の脂肪酸エステルなどの油に薬剤を溶解したのちに乳化を行い、この乳化プロセスは通常80〜90℃で行われるため、熱安定性のある薬剤に限られます 。 chemical-navi(https://www.chemical-navi.com/column/medicine/2011-10-11/1077)
この知識は後発医薬品(ジェネリック)の評価や、調剤現場での製剤特性の理解にも応用できます。PGE(生物学的同等性)試験においても乳化タイプや粒子径が重要な評価項目となっており、同成分でも基剤の乳化構造が異なれば薬物動態が変わる可能性があります 。処方変更時に乳化タイプを確認する習慣が、安全管理の一助になります。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000275170.pdf)
参考:後発医薬品評価における乳化構造の重要性(PMDA公式資料)
局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドライン | PMDA
乳化タイプの知識は、処方箋の確認・患者への説明・混合調整の判断という3つの場面で直接活きます。知識が行動に変わって初めて意味があります。
患者が「べたつくから塗りたくない」と言う場合、o/w型への切り替えが選択肢になります。
また、患者がお薬手帳に記載された外用薬を自己判断で混ぜて使っている事例も少なくありません。o/w型クリームを安易に他の薬と混ぜると乳化が破壊され、薬効の低下だけでなく細菌汚染リスクが生じます。1週間で全例汚染というデータ を知っておくことで、「混ぜないでください」という指導に具体性が生まれます。数字があると患者への説明が伝わりやすくなりますね。 yakuzaic(https://yakuzaic.com/archives/4971)
外用剤の混合処方が疑わしい場合は、「軟膏・クリーム配合変化ハンドブック」(南山堂)を確認するか、製薬会社のMR・学術担当に問い合わせるのが現実的な手順です。調剤薬局においては混合調製を受ける前に基剤タイプの確認を行うことがリスク回避の第一歩です。日常業務に乳化タイプのチェックを組み込むことを強くおすすめします。
参考:皮膚外用剤の基剤分類と特徴に関する医療従事者向け詳細解説(マルホ株式会社)