84回払いを選ぶと、手数料だけで約22万円の出費になります。
マウスピース矯正は、自由診療のため保険が一切適用されません。そのため、費用のすべてが患者の自己負担となります。
全体矯正の場合、費用の相場は70万〜130万円程度です。部分矯正であれば20万〜50万円ほどに抑えられることもありますが、それでも一般的なサラリーマンにとっては気軽に出せる金額ではありません。
費用の内訳を見ると、治療前にかかる相談・カウンセリング料(0〜3万円)、精密検査費(0〜3万円)、矯正装置本体の費用(30万〜110万円)、通院ごとの調整料(月3,000〜1万円)、治療後の保定装置(3万〜6万円)、保定観察費(月3,000〜5,000円)と多岐にわたります。
治療期間は平均1〜3年で、その間ずっと費用が発生し続けます。これが分割払いの需要が高い最大の理由です。
また、歯科医院ごとに料金体系が大きく異なる点も見落とせません。「トータルフィー制(総額固定制)」を採用している医院では、治療開始前に総額が決まり、調整料や追加費用が含まれています。一方、「処置別支払い制」では来院のたびに費用が加算されていく仕組みです。この違いを理解しないまま分割払いの設計をしてしまうと、総額の見積もりがまったく異なる結果になります。
つまり、費用の相場だけでなく料金体系の確認が先決です。
費用の内訳と目安をまとめると次のとおりです。
| 費用の種類 | 目安の金額 |
|---|---|
| カウンセリング・相談 | 0〜30,000円 |
| 精密検査 | 0〜30,000円 |
| マウスピース本体(全体矯正) | 70万〜130万円前後 |
| マウスピース本体(部分矯正) | 20万〜50万円前後 |
| 通院時の調整料 | 月3,000〜10,000円 |
| 保定装置・リテーナー | 30,000〜60,000円 |
| 保定観察費 | 月3,000〜5,000円 |
参考:矯正治療の費用体系・トータルフィー制について詳しく解説されています。
矯正治療の費用体系:トータルフィー(総額制)と調整料制の違い|矯正歯科専門サイト
分割払いには主に3つの方法があります。それぞれ仕組みが異なるため、患者のライフスタイルや収入状況によって最適な選択肢が変わります。
① デンタルローン
歯科治療専用のローンで、信販会社や金融機関が治療費を立て替え、患者が月々返済していく仕組みです。最大の特徴は、一般的なカードローンと比べて金利が低い点で、年率2.5〜8.8%程度が相場です。分割回数も最大84回(約7年)まで設定でき、クリニックによっては120回(10年)まで対応するケースもあります。
月々の支払い額を大幅に抑えられるのが最大のメリットですが、分割回数が多いほど金利手数料の総額は大きくなります。後述のシミュレーションで確認してほしいのですが、120万円を84回払いにすると、手数料だけで約22万5千円もかかります。これは金額が積み上がって見えにくい部分なので、注意が必要です。
また、デンタルローンには審査が必要で、一般的に「20歳以上65歳以下」「安定した収入がある」「過去に金融事故がない」といった条件が求められます。審査には最短即日から1〜2週間かかることもあります。
② 院内分割払い
歯科医院が独自に提供する分割払いで、金融機関を介さずに医院と患者の間で支払いを分けていく方法です。最大のメリットは、多くの場合で金利・手数料が一切かからない点です。
ただし、分割回数は治療期間内(多くは12〜24回程度)に限られることがほとんどです。デンタルローンのように長期分割はできません。医院によって条件が大きく異なり、頭金が必要なケースや、月々の最低支払い額が設定されているケースもあります。
院内分割なら問題ありません、という場合でも、医院によっては独自に手数料を設定しているところもゼロではないため、事前確認は必須です。
③ クレジットカード払い
最も手軽な選択肢ですが、注意点も多いです。1回払いや2回払いであれば手数料は発生しませんが、3回以上の分割払いやリボ払いを選ぶとカード会社の手数料が加算されます。年利は8〜18%程度と、デンタルローンと比べてかなり高くなります。
また、カードの利用限度額が矯正費用の総額に届かないケースも多く、事前確認が不可欠です。高額決済でポイントが貯まるメリットはありますが、リボ払いに安易に切り替えることだけは避けたほうが賢明です。
3つの分割方法を比較すると次のとおりです。
| 方法 | 金利・手数料 | 分割回数 | 審査 |
|---|---|---|---|
| デンタルローン | 年2.5〜8.8%程度 | 最大84〜120回 | 必要(収入・年齢条件あり) |
| 院内分割払い | 多くは0円(無料) | 12〜24回程度 | 不要 |
| クレジットカード(3回以上) | 年8〜18%程度 | カード会社次第 | 不要(枠確認は必要) |
参考:分割払いの各方法をわかりやすく比較・解説しています。
歯科矯正の分割払い方法〜デンタルローンと院内分割の違い|river-clinic-dental.com
分割払いの恐ろしさは、月々の金額が小さく見えてしまうことです。ここでは実際の数字で確認していきましょう。
まず、マウスピース矯正の全体矯正を120万円と仮定します。これをデンタルローン(金利5%)で84回払いにした場合、毎月の支払額は約1万7,000円程度です。一見、負担が少ないように見えますが、手数料の総額は約22万5,000円。最終的な総支払額は142万4,698円にまで膨らみます。
これは新幹線の東京〜新大阪往復乗車券(約3万円)が7〜8枚買える金額です。手数料だけで、それだけの出費が生じると考えると、数字の重さが実感しやすいかもしれません。
次に、全顎ワイヤー矯正100万円のケースです。同じく金利5%・84回払いの場合、手数料は約18万7,000円となり、総支払額は118万7,248円です。
これが院内分割払い(金利0%・24回払い)であれば、毎月約4万1,667円の支払いになりますが、総額はきっかり100万円。手数料はゼロです。月々の支払い額は高くなっても、長い目で見ると圧倒的に有利です。
結論は、月々の金額だけで比較してはいけないということです。
120万円のマウスピース矯正を分割した場合のシミュレーション(金利5%の場合)。
| 分割回数 | 毎月の支払い | 手数料総額 | 最終支払総額 |
|---|---|---|---|
| 12回払い | 約102,100円 | 約25,200円 | 約1,225,200円 |
| 36回払い | 約35,970円 | 約94,920円 | 約1,294,920円 |
| 60回払い | 約22,645円 | 約158,700円 | 約1,358,700円 |
| 84回払い | 約16,960円 | 約224,640円 | 約1,424,640円 |
| 院内分割24回(0%) | 約50,000円 | 0円 | 1,200,000円(変わらず) |
手数料だけで、回数によって最大22万円以上の差が生まれます。これが基本です。
参考:分割手数料の試算・支払いシミュレーションの実例が掲載されています。
矯正治療の支払い方法|一括払い・分割払いの選択肢と特徴|部分矯正のたつや歯科
分割払いで矯正治療を受けている場合でも、医療費控除は受けられます。これは見落とされがちな節税のポイントです。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合に、超えた分が所得税の計算から差し引かれ、一部が還付される制度です。年収500万円の方が矯正に80万円支払った場合、おおよそ10万〜14万円程度が戻ってくる計算になります。
ただし、必ず知っておかなければならない注意点があります。デンタルローンやクレジットカード払いの金利・手数料は、医療費控除の対象外です。控除の申告ができるのは、あくまで治療費の本体部分のみです。
たとえば、120万円の矯正を84回払いにして手数料が22万4,640円かかった場合、医療費控除の対象は120万円のみで、手数料22万円超は控除の計算に一切含まれません。つまり手数料分は完全に持ち出しになります。
また、デンタルローンを利用した場合、信販会社が治療費を立替払いした時点で医療費は支出されたと見なされます。そのため、ローンを組んだ年(治療費が立て替えられた年)の医療費として申告することができます。実際にローンを返済している年ではない点に注意が必要です。
院内分割の場合は、その年に実際に支払った分が当年の医療費控除の対象となります。毎年、支払った金額を積み上げて翌年2〜3月の確定申告で申告していく形になります。
医療費控除の申告には、治療を受けた歯科医院が発行する領収書が必須です。分割払い中であっても、受診ごとに領収書をしっかり受け取り、保管しておくことが条件です。
参考:デンタルローン利用時の医療費控除の注意点が詳しくまとめられています。
歯科矯正の支払いと医療費控除〜賢く節税する方法|cloverdentalclinic.com
歯科従事者として患者に費用・分割の説明をする際には、「月々◯円から始められます」という案内だけでは不十分です。これは、実際に起きたトラブル事例が示す教訓でもあります。
2023年、医療法人「デンタルオフィスX」に対して312人の患者が総額4億5,900万円の損害賠償を求め集団訴訟を起こしました。このケースでは、「月々の分割払い」や「実質無料」といった費用に関する説明に不備があり、患者が総額の実態を正確に理解できないまま契約していたことが大きな問題点の一つとして挙げられています。
歯科医院の現場で患者に分割払いの説明をする際に必要なのは、以下の情報を明確に伝えることです。
まず、治療費の総額(トータルフィー制か処置別か)と、分割を選んだ場合の手数料を加えた最終支払総額を提示することです。「月々1万5千円」という案内だけでは、患者は総額を正確にイメージできません。「合計で◯円になります」という説明が不可欠です。
次に、院内分割・デンタルローン・クレジットカードのそれぞれに向き不向きがある旨を説明することです。収入や審査状況によっては、患者が希望するデンタルローンの審査が通らないケースもあります。その際の代替プランを事前に準備しておくことで、患者の不安を減らせます。
そして、医療費控除の活用についても案内することです。「治療が終わったら確定申告で一部が戻ります」という一言が、患者の最終的な費用感を変えます。治療費控除に必要な領収書を必ず発行することも、医院側の対応として重要です。
リボ払いや長期分割の「手数料の落とし穴」を正直に伝えることが、医院への信頼感を高めることにつながります。これは使えそうな知見です。
説明の透明性は、解約・返金トラブルや口コミでの評判低下を防ぐ、最も確実な予防策のひとつでもあります。患者に「損をさせない説明」を心がけることが、長期的な患者との関係構築と医院の評判維持に直結します。
参考:マウスピース矯正集団訴訟の背景と、医院側の説明責任についての解説記事。
なぜマウスピース矯正で集団訴訟が起こったのか?トラブルに学ぶ注意点|Oh my teeth