内服後90分でもう効果が切れ始めています。
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムを経口投与した場合、薬剤は速やかに消化管から吸収されて血中に移行します。健康成人男子に150mg(錠剤5錠相当)を経口投与した臨床試験では、投与後0.5~1時間で血中濃度が最高値の25ng/mL plasmaに到達することが確認されています。
つまり効果が出るまでは半減期です。
この血中濃度の立ち上がりの速さは、緊急止血を要する場面では重要な要素になります。抜歯前に服用させても、術中に効果のピークを迎えられる可能性があるということですね。ただし実際の臨床では、ピーク濃度に達するまでに個人差があることも考慮しなければなりません。消化管の状態、食事の有無、併用薬などによって吸収速度は変動するためです。
血中濃度の半減期は約1.5時間と報告されており、これは他の止血剤と比較してもやや短めの数値です。半減期が短いということは、体内からの消失が早いということを意味します。投与後3時間も経過すれば、血中濃度は最高値の4分の1程度にまで低下している計算になります。
静脈内投与の場合はさらに半減期が短く、約40分です。投与直後から効果を発揮しますが、その持続時間も限られているため、継続的な効果を期待する場合は繰り返し投与が必要になります。
尿中排泄動態を見ると、血中濃度の推移とよく一致しており、投与後0.5~1.5時間で尿中排泄量が最大となり、24時間までにほぼ完全に排泄されます。この迅速な排泄パターンは、体内蓄積のリスクが低いというメリットがある一方で、長時間の効果を期待できないというデメリットにもなります。
今日の臨床サポート:カルバゾクロムスルホン酸Na錠の薬物動態データ
上記リンクには、カルバゾクロムの詳細な薬物動態パラメータと臨床試験データが掲載されています。
動物実験のデータでは、ウサギに2.5mg/kgまたは5.0mg/kgを静脈内投与した場合、投与後60分で出血時間をそれぞれ18%、42%短縮し、その効果は3時間以上持続することが示されています。この「3時間以上」という持続時間が、臨床における実質的な効果時間の目安となります。
3時間が目安ということです。
しかし実際の歯科臨床では、この3時間という時間をどう解釈するかが問題になります。たとえば抜歯手術であれば、術中から術後初期の止血が最も重要で、その時間帯は1~2時間程度です。カルバゾクロムの効果持続時間がちょうどこの時間帯をカバーできるため、理論上は有用に思えます。
ただし人間での止血効果の持続時間を直接測定した大規模臨床試験は存在しません。動物実験の結果をそのまま人間に当てはめることには限界があります。体重あたりの投与量、代謝速度、血管の構造など、種差による影響は無視できません。
また多くの患者さんでは、投与開始後24~48時間以内に何らかの効果が感じられるとされていますが、これは急性出血に対する即効性というよりも、反復投与による慢性的な血管強化効果を指している可能性があります。急性出血と慢性出血では、求められる薬剤の作用機序も異なるため、効果の評価方法も変わってきます。
添付文書上の用法用量は、「カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物として、通常成人1日30~90mgを3回に分割経口投与する」となっています。この1日3回という投与回数は、半減期1.5時間という薬物動態から考えると、やや不思議に感じるかもしれません。
半減期の3~5倍が定常状態に達する時間とされるため、カルバゾクロムの場合は約5~8時間で定常状態になります。1日3回投与(約8時間間隔)であれば、血中濃度の谷(トラフ)と山(ピーク)の変動を抑えながら、ある程度安定した血中濃度を維持できる理論的根拠はあります。
血中濃度を保つためです。
しかし実際には、半減期が短いため次回投与までに血中濃度はかなり低下してしまいます。朝8時に服用して、次が昼12時だとしても4時間空きますが、この間に血中濃度は最高値の6分の1程度にまで低下している可能性があります。つまり完全に効果が途切れる時間帯が生じるわけです。
手術中・術後の異常出血に対しては、「1回5~10mgを2~4時間毎に止血するまで皮下注射、筋肉内注射又は静脈内注射する」という用法もあります。この場合は2~4時間間隔という、より短い投与間隔が設定されています。これは半減期の短さを考慮した、より理にかなった投与方法と言えます。
ただし注射剤を頻回投与することは患者負担も大きく、外来ベースの歯科診療では現実的ではありません。そのため多くの歯科医院では、術前・術後に経口薬を処方する形をとっています。しかしこの場合、効果が本当に持続しているのか、あるいは自然止血なのか、判別は困難です。
抜歯などの観血的処置を行う際、カルバゾクロムをいつ投与すべきかは、実は明確なエビデンスがありません。一般的には術後に処方されることが多いのですが、薬物動態を考えると術前投与の方が理にかなっているとも言えます。
術前30~60分に投与すれば、ちょうど術中に血中濃度がピークに達し、術直後の最も出血リスクが高い時間帯をカバーできます。しかし実際の臨床では、患者が来院してから抜歯までの待ち時間が30分未満のことも多く、タイミングを合わせるのは容易ではありません。
術前投与が理想的です。
術後投与の場合、服用後に効果が出るまで30分~1時間かかるため、術直後の初期止血には間に合いません。この時間帯は圧迫止血やガーゼ咬合などの物理的止血に頼ることになります。カルバゾクロムが効いてくる頃には、すでに一次止血が完了している可能性もあります。
抗血栓薬を服用している患者の場合、より慎重な対応が必要です。直接経口抗凝固薬(DOAC)を内服している患者では、内服後6時間以上経過した後の抜歯が推奨されています。この場合、カルバゾクロムを併用したとしても、その止血効果よりも抗凝固薬の作用が上回る可能性があるため、過度な期待は禁物です。
カルバゾクロムは血液凝固・線溶系には直接影響を与えず、血管壁を強化することで止血を図る薬剤です。そのため抗凝固薬との併用自体は問題ありませんが、出血傾向そのものを根本的に改善するわけではないという限界を理解しておく必要があります。
上記ガイドラインには、抗血栓療法中の患者における抜歯の際の具体的な対応方法が記載されています。
歯科臨床では、カルバゾクロムとトラネキサム酸を併用処方することが一般的です。この2剤は作用機序が異なるため、理論上は相補的な効果が期待できます。トラネキサム酸はプラスミンとフィブリンの結合を阻害することで線溶を抑制し、カルバゾクロムは血管壁を強化します。
トラネキサム酸の血中半減期は約2時間で、1日3回投与により比較的安定した血中濃度を維持できます。カルバゾクロムの半減期1.5時間と比較すると、やや長めの持続時間が期待できるわけです。
併用が一般的な理由です。
救急領域では、CRASH-2試験という大規模臨床試験により、トラネキサム酸が重症出血を伴う外傷に対して総死亡率と出血死を有意に低下させることが証明されています。一方でカルバゾクロム単独での大規模臨床試験は存在せず、エビデンスレベルには大きな差があります。
実際、呼吸器内科医の報告によれば、「カルバゾクロム単独が日常臨床で出合う出血性エピソードを有意に抑制できるかどうかは不明」とされています。トラネキサム酸とカルバゾクロムを併用した報告はいくつかありますが、カルバゾクロム単独の有用性を示すヒトでの質の高い臨床試験は、半世紀以上使用されているにもかかわらず存在しないのが現状です。
トラネキサム酸はカルバゾクロムよりも止血効果が強いとされており、喀血への投与では院内死亡率を下げたという報告もあります。そのため併用する場合、実質的にはトラネキサム酸が主役で、カルバゾクロムは補助的な役割にとどまっている可能性があります。
両剤を併用する場合の投与タイミングも考慮が必要です。どちらも効果発現まで30分~1時間程度かかるため、術前投与が理想的ですが、実際には術後処方が一般的です。この場合、術後数時間は薬剤の効果よりも、圧迫止血などの物理的手段が主な止血機序になります。
呼吸器内科医による「カルバゾクロム(アドナ®)に止血効果はあるのか」
上記ブログ記事では、カルバゾクロムの臨床エビデンスの乏しさについて、文献を引用しながら詳しく考察されています。