ゴシックアーチ描記法の手順を正しく踏まずに義歯を作ると、調整回数が平均2回以上増えてしまいます。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390285300155941888)
ゴシックアーチ描記法(GoA)は、上顎に描記板、下顎に描記針を装着し、下顎の前後・左右の限界運動軌跡を水平面に記録する方法です。 総義歯臨床における水平的顎間関係の決定法として100年以上前から用いられてきた歴史ある手技であり、その名称はGothic建築の尖頭アーチに由来します。 描記図に現れる矢じり形状の先端をアペックス(Apex)と呼び、これが正常な下顎限界運動の中心を示します。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18298)
描記装置には口外法と口内法の2種類があります。口外法は固定器により下顎の咬合堤に描記針を装着するもの、口内法は口腔内に装置を設置するものです。 この2つは描記針と描記板の位置的関係が異なるため、ゴシックアーチの頂点の方向が逆になる点に注意が必要です。 どちらの方法を選択するかは術者の習熟度や症例の状態に応じて判断します。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/19990)
つまり、装置の種類と向きを正確に把握することが第一歩です。
手順は大きく4ステップで構成されます。まず咬合高径を決定した後、描記装置を装着し、上下記録床の衝突や動揺がないことを確認します。 次に患者に下顎の動かし方を十分練習させることが重要です。この練習を省略すると描記図が乱れ、正確なアペックスが得られにくくなります。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18298)
練習が十分できたら、描記板に記録用インクを塗布して実際の描記に移ります。 具体的には、前方に動かしてから後方に戻し、次いで右または左側方に移動させてふたたび後方に戻させます。 反対側も同様に行います。これが基本です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18298)
描記終了後はタッピング運動を行わせ、描記図中にタッピングポイント(TP)を記録します。 アペックスとTPの位置関係を確認し、咬合採得位を最終決定します。 手順を飛ばさないことが大原則です。 8241(https://8241.tv/blog/archives/1842)
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ① | 咬合高径の決定・装置装着 | 記録床の衝突・動揺を確認 |
| ② | 患者への下顎運動練習 | 十分な練習なしに描記しない |
| ③ | インク塗布・描記開始 | 前方→後方→側方の順を守る |
| ④ | タッピング運動・TP記録 | アペックスとTPの位置関係を確認 |
描記図の読影で最も重要なのは、アペックスとタッピングポイントの位置関係です。 アペックスは下顎を最大限に動かしたときの矢じり形先端であり、タッピングポイントは軽く上下顎を咬合させたときに描記針が当たる点です。 この2点が一致していれば顎関節が安定していると判断できます。 note(https://note.com/koroden/n/n28f05eb89c02)
しかし実臨床では、アペックスとTPが完全一致するケースは全体の11.8%にすぎないという研究結果があります。 つまり多くの症例でズレが生じているということです。Ap/TP間距離が0.9〜1.6 mm(B群)の患者では義歯調整回数が統計的に増加することがわかっています。 意外ですね。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390285300155941888)
読影時のチェックポイントは以下の4つです。 note(https://note.com/koroden/n/n28f05eb89c02)
研究によると、Ap/TP間距離が大きくなるほどGoAスコアが有意に大きくなり、描記障害が生じやすくなります。 TP収束が得られなかった15症例では、収束した症例に比べてAp/TP間距離とGoAスコアがともに有意に大きかったという結果も報告されています。 読影は丁寧に、が原則です。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390285300155941888)
GoAを用いた義歯調整回数は平均2.1±2.0回と比較的少なく抑えられることも示されており、適切な手順で行った場合の臨床的メリットは大きいと言えます。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390285300155941888)
参考:ゴシックアーチ描記法における定量的・形態的評価と義歯調整回数の関連を示した学術研究(J-STAGE)
描記図が乱れる最大の原因は患者の下顎誘導が不十分なことです。練習量が足りないまま描記を行うと、矢じり形の先端が鈍くなり、アペックスを正確に特定できなくなります。 これは使えそうです。 ir.tdc.ac(https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/6303/1/123_310.pdf)
もう一つの原因として、記録床の不安定があります。記録床が動揺していると描記中に上下装置の位置関係がズレ、正確な軌跡が描けません。 装着直後に必ず動揺・衝突チェックを行うことが重要です。これが基本です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/clinical_examination/18298)
また、咬合高径が適切でないと側方運動量が変化し、描記図の形態に影響が出ます。 ゴシックアーチの正常値として、側方切歯路角は個人差があるものの平均約120度とされています(Gysiによる報告)。 ただし咬合高径や描記針の取り付け位置によっても変化するため、この数値はあくまで目安です。 hyoron.co(https://www.hyoron.co.jp/book/b470617.html)
描記図に問題がある場合は、一度装置を外して再確認することをためらわないようにしましょう。 再描記を恐れないことが、結果として義歯の精度向上につながります。 ir.tdc.ac(https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/6303/1/123_310.pdf)
ゴシックアーチ描記法は、単に下顎位を決めるだけの方法ではありません。術者の咬合採得時のエラーを減らし、患者の下顎限界運動路を口腔外から客観的に確認できる点に大きな価値があります。 これは患者への説明ツールとしても活用できます。 oned(https://oned.jp/posts/4810)
例えば、患者に描記図を見せながら「あごがこのように動いています」と視覚的に示すことで、患者の治療理解と協力度が上がる場面があります。患者が自分の顎の状態を「絵」として理解できるのは、他の顎位採得法にはない強みです。
国際的に見ても、ゴシックアーチトレーシングは「中心位を決定するための最も信頼性が高く予測可能な方法」と評価されています。 全部床義歯患者だけでなく、有歯顎患者の咬合再構成時にも有効であることが示されています。 適応範囲は広いと言えます。 magonlinelibrary(https://www.magonlinelibrary.com/doi/abs/10.12968/denu.2022.49.1.40)
しかし、100年以上の歴史を持つにもかかわらず、総義歯臨床での定番化が進んでいない現状があります。 GoAトレーサーのセットアップに要する時間は約10分とされており、この短時間で術後の調整を大幅に減らせることを考えれば、臨床的な費用対効果は非常に高いと言えます。 知らないと損する情報です。 scribd(https://www.scribd.com/document/505933665/DTDec14p98)
GoAの臨床応用に関する詳しい手技・症例解説は、以下の書籍が参考になります。タッピングとアペックスが一致する理想例から、不一致例の対処まで網羅されています。
『安定した咬み合わせを作るためのゴシックアーチ描記法』(ヒョーロン・パブリッシャーズ)