パッチテストで「陰性」が出ても、そのまま銀歯を使い続けると患者がアレルギー症状を発症するケースがあります。
銀歯(金銀パラジウム合金)が引き起こすアレルギーは、即時型ではなく「Ⅳ型遅延型過敏症」に分類されます。これは抗原との接触から48時間以降に反応が現れる免疫反応であり、T細胞が主体となった細胞性免疫です。そのため、通常の血液アレルギー検査(IgE測定)では検出できません。この点を歯科従事者が正確に把握しておくことが、患者説明の第一歩となります。
現在、最も広く使われている金属アレルギーの検査は「48時間閉鎖型パッチテスト」です。金属試薬を染み込ませたテープを背部に48時間貼付し、除去後に2日目・3日目・7日目の3回、国際基準(ICDRG)に従って判定を行います。判定を3回行う点が重要で、7日目まで追わないと偽陽性・偽陰性を見逃すリスクがあります。
しかしパッチテストには明確な限界があります。日本補綴歯科学会の総説(2016年)でも「パッチテストの精度は100%ではなく、偽陽性反応を示すことが報告されており、7日目までしっかり判定を行い偽陽性・偽陰性を可及的に減らすことが求められる」と明記されています。
| 検査名 | 方法 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|---|
| パッチテスト(PT) | 背中に試薬を48時間貼付 | 再現性が高く標準的手法 | 偽陽性・偽陰性あり、夏季は実施不可 |
| リンパ球刺激試験(DLST) | 患者血液+金属イオンで培養 | 来院回数が減る、新たな感作リスクなし | 偽陽性が非常に多く、PTの代替にならない |
| 金属成分分析(XRF) | 口腔内修復物をわずかに削り蛍光X線で分析 | 非破壊的にアレルゲン所在を特定できる | 分析装置を持つ施設が限られる |
つまり、3種類の検査を状況に応じて使い分けることが基本です。歯科医院内だけで完結しようとすると、不正確な判断になる可能性があります。
参考:日本歯科医師会「テーマパーク8020」金属アレルギー検査法の解説
https://www.jda.or.jp/park/relation/metalallergy_04.html
多くの歯科従事者が見落とすポイントがあります。パッチテストは夏季(概ね6〜9月)には原則として実施できません。発汗により偽陽性が増加し、正確な判定が著しく困難になるためです。東京女子医科大学附属足立医療センターをはじめ、複数の大学病院皮膚科がこの時期の実施を制限しています。
季節制限は盲点になりやすいですね。
患者が夏に「金属アレルギーの検査をしたい」と申し出てきたとき、歯科側から「秋まで待っていただく必要があります」と正確に説明できるかどうかが、患者信頼に直結します。検査のタイミングを誤ると、偽陰性が出て「問題なし」と判断され、その後も銀歯が口腔内に残り続けるというリスクを生じさせます。
また、パッチテスト期間中は以下の制限が患者に課されます。
これらの制限を患者があらかじめ理解しているかどうかが、検査の完遂率を大きく左右します。歯科側でのインフォームドコンセントと、皮膚科との情報共有体制を事前に整えておくことが求められます。
パッチテストでアレルゲン金属が特定された後、実はもう一段階の検査が不可欠です。それが「口腔内金属成分分析(蛍光X線分析:XRF)」です。この検査の目的は、パッチテストで陽性になった金属元素が、口腔内のどの修復物に含まれているかを特定することにあります。
なぜこの検査が必要なのでしょうか?
口腔内に複数の金属修復物が存在している場合、すべてを除去してしまうと患者・歯科医双方に大きな時間・費用・労力の負担がかかります。日本歯科医師会の資料でも「肉眼所見だけで使用されている金属材料の成分を判断し、金属修復物をむやみに除去したのでは、再修復治療に要する時間・費用・労力などを考えると、非常に負担が大きくなる可能性が高い」と明示されています。
成分分析が条件です。
具体的には、口腔内修復物の表面をごく少量(約0.1mg)削り取り、蛍光X線分析装置(XRFS)で含有元素を定性・定量分析します。これにより、パッチテスト陽性金属を含む修復物のみを選択的に除去する「選択的抗原除去」が可能になります。この検査を省いてしまうと、アレルゲンを含まない修復物まで撤去することになり、患者への不必要な侵襲を与えるだけでなく、治療コストも大幅に膨らみます。
ただし、蛍光X線分析装置を導入している歯科医院は限られているのが現状です。設備のない歯科医院では、大学病院の歯科アレルギー外来や専門施設への紹介が適切な対応となります。東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)病院の歯科アレルギー外来などが専門機関として知られています。
参考:東京科学大学病院 歯科アレルギー外来について
https://www.tmd.ac.jp/dent_hospital/medical/allergy.html
歯科従事者が銀歯アレルギー検査を適切に勧めるべき「見逃しやすい関連疾患」として、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)と口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)があります。これらは皮膚科での治療が長引きやすく、歯科金属が原因の一つである可能性が疑われながら見落とされているケースが少なくありません。
日本補綴歯科学会の2012年多施設調査(13施設参加)によると、金属アレルギーを疑って受診した患者の口腔内症状で最も多いのが「扁平苔癬」で全体の約29%を占めていました。また、掌蹠膿疱症患者の約20〜30%に歯科金属との関連が疑われるという報告(東京医科歯科大学などの研究)もあります。
掌蹠膿疱症は手のひら・足の裏に膿疱が繰り返しできる難治性の疾患で、患者が「なかなか治らない」と悩んでいるケースが多いです。ここで歯科側から銀歯との関連性を患者に説明し、適切な検査フローへ誘導できるかどうかが、患者のQOL改善に大きく影響します。
意外ですね。
さらに、2012年の同調査では「銀歯アレルギーが疑われる患者の約70%がすでに別のアレルギー疾患(アレルギー性鼻炎・食物アレルギーなど)を有していた」という結果も出ています。アレルギー素因を持つ患者への問診の中で、銀歯の有無と既存アレルギーの有無を同時に確認する習慣を持つことが、早期発見につながります。
参考:歯科金属アレルギーの現状と展望(日本補綴歯科学会誌 2016年)
https://www.hotetsu.com/s/doc/irai2016_4_01.pdf
銀歯アレルギーの検査が完了した後、歯科側がすべき重要な実務があります。それが「保険適用でのメタルフリー治療への橋渡し」です。検査結果を持っていても、正しい手順を踏まないと患者が全額自費負担になるリスクがあります。
現行制度では、大臼歯へのCAD/CAM冠(ハイブリッドレジン製の白い被せ物)を保険で使用するには、「歯科用金属を原因とする金属アレルギーを有する患者」であることが前提です。ただし、歯科医院が独自にアレルギーを判定するだけでは不十分で、「医科の保険医療機関または医科歯科併設の医療機関の医師との連携の上で、診療情報提供に基づく場合に限る」という条件があります。つまり、皮膚科などからの診断書または診療情報提供書が必須となります。
保険適用の流れを整理すると、以下のようになります。
歯科側での施設基準(届出)の有無も保険算定の条件となります。歯科医院が施設基準を取得していない場合、CAD/CAM冠を保険算定できないため、患者に不利益が生じます。医院のスタッフ全員が施設基準の有無を把握しておくことが、現場での正確な患者案内に直結します。
また、アレルゲン除去後の治癒経過については、東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)の臨床データでも「除去後2か月では50%以上の患者に症状変化なし、約2年後には約60%が改善傾向」という結果が示されています。アレルゲン除去=即治癒ではないことを、患者へ丁寧に伝えることが医療トラブル防止にもなります。これが条件です。
参考:金属アレルギーの方必見!保険適用でできる歯科治療(中垣歯科医院)
https://www.metal-allergy.jp/allergyguide/03.html