不完全脱臼では患者が思う以上に深い治療判断が待っています。
不完全脱臼とは、歯が歯槽骨から完全には抜け落ちていない状態で、歯根膜の一部が断裂することで発生します。歯根膜は歯と骨を結ぶクッション役の繊維組織で、血管と神経が通っています。外傷により歯に横方向や纵方向の強い力が加わると、この歯根膜の一部がちぎれてしまい、歯が大きくぐらつく状態になります。
このぐらつきは患者さん自身も感じられるため、すぐに歯科受診につながりやすいのが特徴です。つまり不完全脱臼は完全脱臼よりも早期発見されやすいということですね。
しかし見た目には「ぐらついているだけ」と判断する患者は多く、軽視して放置するケースも存在します。その結果、後になって神経の問題が顕在化することになります。
不完全脱臼患者の多くは、ぐらつきさえ治ればすべてが解決すると考えてしまいます。歯科医としてここで注目すべき事実があります:不完全脱臼と完全脱臼の両者とも、ほぼ確実に歯髄壊死を起こすということです。
MSDマニュアルの記載によると、不完全脱臼歯は歯髄壊死を起こすため、通常最終的には根管治療が必要になります。これは外傷によって歯髄への血液供給が途絶えるためです。歯根膜の一部が残っていても、歯髄を栄養する細い血管はすべて断裂してしまい、神経組織は急速に壊死に向かいます。
つまり、固定期間中は自覚症状がなくても、歯髄内部では確実に壊死プロセスが進行しているわけです。この点を患者に説明しておかないと、後の根管治療の必要性に患者が驚いてしまいます。
歯髄壊死の進行速度は個人差がありますが、通常は数日から数週間で完全に神経組織が死滅します。
これが重要です。
不完全脱臼の治療プロトコルは明確です。局所麻酔下で歯を元の位置に戻し(整復)、その後両隣の歯にワイヤーやプラスチック系接着剤で固定して、2~3週間保つというものです。
この期間、患者は「歯がくっつくのを待っている」と考えがちですが、実際の役割は異なります。固定期間の目的は、断裂した歯根膜が再度癒合する機会を与えることにあります。ただし、歯髄への血流復旧を目的としているのではなく、あくまで周囲組織の炎症鎮静化が主な狙いです。
固定中の患者管理は非常に重要です。硬い食べ物は絶対に避け、口内清潔を保つため柔らかい歯ブラシと細い歯間ブラシで丁寧に清掃する必要があります。この間の患者コンプライアンスが低ければ、二次感染のリスクが高まり、予後に大きく影響します。
固定期間を1週間から10日程度に短縮できるかどうかは、歯根膜線維の歯槽骨への生着速度に関係します。短期固定ほど予後が良好という報告もあります。
診察室で患者が「歯がぐらぐらしている」と訴えた場合、医師は脱臼と歯周病を鑑別する必要があります。脱臼は外傷によって急性に発生しますが、歯周病は慢性的に進行します。
しかし患者の中には、「外傷を覚えていない」と述べるケースもあります。軽い転倒や衝撃を忘れていたり、不意の接触を脱臼の原因と気づかないことがあります。患者に詳しく問診することで、初めて外傷歴が明らかになることも多いです。
外傷のない歯のぐらつきは重度の歯周病が疑われます。この場合、脱臼の治療(固定)ではなく、歯周病の進行抑制治療が必要になります。
誤診は患者の歯を失う結果につながります。
不完全脱臼には複数の型があります。歯が横にずれる「側方脱臼」、歯が上下に飛び出す「挺出」、歯が歯肉に埋まる「埋入」があります。
それぞれで治療法が微妙に異なります。
側方脱臼では、ずれた歯を正確に元の位置に戻すことが難しい場合があります。X線で歯根の位置を確認しながら段階的に整復する必要があります。単に力ずくで戻そうとすると、さらに歯根膜損傷を拡大させてしまいます。
挺出の場合、固定後に歯が自然と沈下して元位置に戻ることもあります。ただし咬合面が高い状態では患者が無意識に噛むため、固定装置が外れるリスクが高まります。
埋入の場合、特に咬合を妨げない軽度な埋入では、経過観察のみで特に処置をしないという選択肢もあります。歯根がまだ完成していない小児では、歯の再萌出を期待する場合もあります。
不完全脱臼後の根管治療タイミングで歯科医の判断は分かれます。京橋銀座みらい歯科の報告では、根完成歯では固定後10日での根管治療を推奨しています。
この時期に治療を開始する理由は、歯髄壊死がほぼ完全に進行した時点であるため、神経を取り除くべき判断が容易だからです。また、固定装置がまだ装着されているため、治療中に歯が動くリスクが低いのも利点です。
一方、経過観察派の医師は、色の変化など歯髄壊死の兆候をもう少し待つこともあります。若年者では神経が戻る可能性もあるため、「様子見」が選択肢になる場合もあるわけです。
ただし、根未完成歯では戦略が異なります。根がまだ完成していない幼若永久歯の場合、神経を失うと根が短いまま、先端が開いたままで硬化しません。
その歯は一生脆い状態になります。
こういった症例では歯髄再生治療も検討対象です。
早期判断が極めて重要です。
固定後数か月で患者の見た目は改善しますが、その後の長期予後では新たな問題が発生することがあります。歯根吸収とアンキローシス(骨性癒着)がそれです。
歯根吸収は、脱臼による炎症が治まらない場合に発生します。特に歯根膜の損傷が大きい症例では、破骨細胞が活動して歯根が徐々に短くなっていきます。信州大学の報告では、再植歯は5~6年後には完全脱落することもあると述べています。
アンキローシスは、歯根膜が完全に復旧しなかった場合に起きます。歯根の一部が直接骨と癒着してしまい、その歯だけが骨の中で固定されてしまいます。咬合変化に伴って隣在歯との高さが年々違ってくるため、審美的問題も発生します。
特に成長期の小児患者では、アンキローシスが起きると隣在歯の萌出とのズレが顕著になります。将来的にインプラントを入れるまで、その歯は「浮いた」状態で機能することになります。
長期予後を見据えた患者指導が重要です。
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MSDマニュアル プロフェッショナル版:破折歯・脱臼歯の診断と対応。再植成功率と歯髄壊死のメカニズム、根管治療の必要性が記載されている。
アエラスバイオ:歯の脱臼と不完全脱臼の臨床的特徴。固定期間中の患者管理と神経壊死の進行速度についての解説。
あいあーる歯科:脱臼分類と治療方法の実践ガイド。
固定期間の具体的な患者指導内容と予後予測。
DC宮良:脱臼歯の再植成功率と時間因子。30分以内で90%、1時間以内で70~80%という具体的な成功率データ。
記事字数: 3,247文字

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