検査前2時間の食事制限を守らないと基準値を満たしていても異常と判定されます
唾液分泌速度検査は、患者の口腔内環境を客観的に評価するために欠かせない検査です。唾液には自浄作用や抗菌作用、緩衝作用といった重要な機能があり、これらの機能が低下すると齲蝕や歯周病、口臭、嚥下障害などさまざまな口腔トラブルのリスクが高まります。特に高齢者では複数の薬剤を服用していることが多く、薬剤性ドライマウスによって唾液分泌量が減少しているケースが少なくありません。実際、80歳以上では唾液分泌量が若年者の半分以下に減少するという報告もあります。
口腔機能低下症の診断には7項目の検査が定められており、そのうち「口腔乾燥」の評価として唾液分泌速度検査が位置づけられています。7項目のうち3項目以上で基準値を下回ると口腔機能低下症と診断され、保険病名として算定できるようになります。つまり、この検査は単なる唾液量の測定にとどまらず、患者の口腔機能全体を評価し、適切な管理や指導につなげるための重要な入口となるわけです。
唾液分泌量の低下は患者自身が自覚しにくい症状でもあります。口腔内の乾燥感を訴える患者もいれば、無症状で検査によって初めて分泌量低下が判明するケースもあります。歯科医療従事者として、問診だけでなく客観的な数値データで評価することが求められています。
これは予防歯科の観点からも重要です。
唾液分泌速度検査には主に4つの測定方法があり、それぞれ刺激時唾液と安静時唾液のどちらを測定するか、また測定にかかる時間や患者の負担が異なります。
まず最も一般的なのがガム法です。
ガム法は無味無臭のチューイングガムを10分間咀嚼してもらい、その間に分泌された唾液を容器に吐き出して計測します。基準値は10ml/10分以上で、これを下回ると唾液分泌量低下と判定されます。慶應義塾大学病院など多くの医療機関で採用されており、刺激時唾液の評価として最もスタンダードな方法です。
次にサクソンテストがあります。これは規格ガーゼを2分間咀嚼してもらい、ガーゼに浸み込んだ唾液の重さを測定する方法です。
基準値は2g/2分以上となっています。
ガム法よりも短時間で実施でき、入れ歯が不安定な患者や咀嚼機能が低下した高齢者にも比較的実施しやすいという利点があります。測定時間がわずか2分間というのは、患者負担の軽減という点で大きなメリットです。
安静時唾液の測定には吐唾法が用いられます。吐唾法は、リラックスした状態で15分間口を閉じたまま安静にし、口腔内に貯まった唾液を1~2分ごとに容器に吐き出して計測します。シェーグレン症候群の診断基準では15分間で1.5ml以下を分泌量低下としていますが、一般的な口腔機能評価では10分間で1ml以下を基準値とすることが多いです。安静時の唾液分泌能力を知ることは、夜間の口腔乾燥リスク評価に直結します。
最後にワッテ法です。ワッテ法は、あらかじめ重量を測定した歯科用ロールワッテを舌下部に30秒間または60秒間置き、前後の重量差で唾液量を算出します。基準値は0.1g/30秒以上、または0.2g/60秒以上です。この方法は吐出動作が不要なため、嚥下障害のある患者や唾液を吐き出すことが困難な患者にも実施できるという大きな特徴があります。
測定時間が最も短いのも利点ですね。
それぞれの測定法には一長一短があり、患者の状態や検査の目的に応じて使い分けることが重要です。刺激時唾液と安静時唾液では分泌メカニズムが異なるため、両方を測定することでより正確な口腔機能評価が可能になります。
唾液分泌速度検査で正確な結果を得るためには、検査前の条件設定が極めて重要です。多くの歯科医院では「検査前2時間は飲食・歯磨き・うがいを控えてください」と患者に説明していますが、この指示を守らないと検査結果に大きな誤差が生じます。たとえば食後すぐに検査を行うと、食物による刺激で唾液分泌が一時的に亢進し、実際よりも高い値が出てしまいます。逆に歯磨き直後は歯磨き粉に含まれるフッ素や研磨剤、殺菌成分が口腔内に残留し、唾液の性状や分泌量に影響を与えるのです。
洗口液(マウスウォッシュ)の使用制限はさらに厳しく設定されています。殺菌成分を含む洗口液は検査前12時間以内の使用を禁止している施設が多く見られます。これは洗口液の殺菌効果が長時間持続し、口腔内細菌叢のバランスを変化させるためです。特に唾液検査と同時に口腔細菌検査を実施する場合、洗口液の影響で細菌数が実際よりも少なく測定され、患者のリスク評価を誤る可能性があります。
喫煙も検査結果に影響を与える要因の一つです。喫煙によって口腔粘膜が刺激され、一時的に唾液分泌が変動します。また、タバコのニコチンやタールが唾液の性状を変化させることも知られています。検査前1~2時間は禁煙してもらうことが望ましいでしょう。
さらに見落とされがちなのが検査前の運動です。激しい運動後は交感神経が優位になり、唾液分泌が抑制されます。スポーツクラブ帰りの患者や、駅から急いで走ってきた患者では、実際よりも低い値が出る可能性があります。検査前は安静にしてリラックスした状態で臨んでもらうことが理想です。
これらの条件を患者に事前にしっかり説明し、守ってもらうことが検査精度の向上につながります。条件を守らずに検査を実施すると、再検査が必要になり患者負担も増えてしまいますからね。
唾液分泌速度検査は口腔機能低下症の診断において保険算定が可能です。具体的には、口腔機能低下症の診断に必要な7項目の検査のうち「口腔乾燥」の評価項目として位置づけられており、刺激時唾液分泌量または口腔粘膜湿潤度のいずれかを測定します。7項目のうち3項目以上で基準値を下回った場合に口腔機能低下症と診断され、歯科疾患管理料に口腔機能管理加算100点を算定できるようになります。
口腔機能管理体制強化加算の届出を行っている診療所では、さらに50点が加算され、合計で月1回150点(歯科疾患管理料100点+口腔機能管理加算100点+口腔機能管理体制強化加算50点)の算定が可能です。これは金額に換算すると1,500円(患者負担は3割で450円)となります。年間12か月継続的に管理を行えば18,000円の診療報酬となり、診療所経営の安定にも寄与します。
ただし算定には注意点もあります。まず、口腔機能低下症の検査は同一月内に複数回実施できますが、2回目以降は所定点数の50%となります。たとえば口腔細菌定量検査を同月内に2回行った場合、1回目は130点ですが2回目は65点しか算定できません。また、歯科特定疾患療養管理料(170点/月2回まで)を算定している患者では口腔機能管理加算が算定できないため、どちらを算定するか事前に判断する必要があります。
唾液分泌速度検査単独では保険点数として明示されていませんが、口腔機能低下症の検査の一環として実施することで保険適用となります。つまり口腔機能低下症の診断目的でなければ自費診療となるわけです。予防目的や患者のリスク評価のみを目的とした唾液検査は自費となり、費用は3,000円~10,000円程度が一般的です。
口腔機能低下症の管理は月1回の算定が基本ですが、患者の状態に応じて継続的な評価が必要です。SPT(歯周病安定期治療)や歯周病重症化予防治療と同日に実施している医院も多く、効率的な診療体制の構築が求められます。検査機器の導入コストと診療報酬のバランスを考えながら、患者利益を最優先した検査体制を整えることが大切ですね。
唾液分泌量は一定ではなく、さまざまな要因によって変動します。歯科医療従事者として特に注意すべきなのが日内変動です。唾液分泌量は睡眠中に最も低下し、午前6時頃に最低値を示します。その後、日中は徐々に増加し、飲食時に最も多く分泌されます。研究によると、午前よりも午後の方が唾液分泌量の変動が大きいことが報告されています。このため、唾液分泌速度検査を実施する時間帯を一定にすることが理想的ですが、実際の臨床現場では難しい場合もあります。
加齢も唾液分泌量に大きく影響します。ただし、単純に加齢だけで唾液分泌量が減少するわけではありません。70歳以上では男性の16%、女性の25%に唾液減少が認められたという研究があり、特に女性は加齢に伴って唾液分泌が大きく減少する傾向があります。しかし、健康な高齢者では唾液腺の萎縮はあっても機能的な予備能力は保たれており、適切な咀嚼や唾液腺マッサージによって分泌量を維持することが可能です。
薬剤性ドライマウスは臨床現場で頻繁に遭遇する問題です。抗うつ薬、抗不安薬、抗ヒスタミン薬、降圧薬、利尿薬など、600種類以上の薬剤が唾液分泌を抑制する副作用を持つとされています。特に高齢者は複数の薬剤を併用していることが多く、薬剤の相互作用によって唾液分泌抑制効果が増強されるケースがあります。問診時に服用薬を必ず確認し、薬剤性ドライマウスの可能性を考慮することが重要です。
ストレスや精神状態も唾液分泌に影響します。交感神経が優位になると唾液分泌が抑制され、粘稠な唾液が分泌されます。逆に副交感神経が優位になると水様性のサラサラした唾液が多く分泌されます。検査時に患者が緊張していると正確な測定ができないため、リラックスした環境づくりが必要です。待合室で十分に休んでもらってから検査室に案内するなど、配慮が求められますね。
全身疾患も唾液分泌に影響を与えます。特にシェーグレン症候群は唾液腺や涙腺が障害される自己免疫疾患で、著しい唾液分泌低下を引き起こします。シェーグレン症候群の診断基準では、ガム法で10ml/10分以下、サクソン法で2g/2分以下、吐唾法で15分間1.5ml以下が異常値とされています。唾液分泌速度検査で著しい低下が認められた場合は、全身疾患の可能性も視野に入れて内科への紹介を検討する必要があります。
唾液分泌速度検査の結果を解釈する際は、これらの影響因子を総合的に評価することが求められます。単に数値だけを見るのではなく、患者背景や生活習慣、服薬状況などを含めて判断することで、より適切な診断と管理につながるのです。
慶應義塾大学病院KOMPASの唾液量検査ページには、ガム法の具体的な実施方法と注意点が詳しく解説されています。検査の標準化を図る上で参考になる情報源です。
日本老年歯科医学会の口腔機能低下症診断マニュアル(PDF)では、唾液分泌速度検査を含む7項目の検査方法と診断基準が詳細に記載されており、保険診療における実施手順の確認に役立ちます。

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