防腐剤フリーの目薬が「安全」だからこそ、かえって重大なミスを招きやすいことがあります。
医療用の防腐剤フリー目薬は「PF(Preservative Free)点眼液」とも呼ばれ、ベンザルコニウム塩化物(BAC)などの防腐剤を一切含まない処方薬です。 通常の点眼薬に防腐剤が添加される理由は、開封後の繰り返し使用による細菌などの微生物汚染を防ぐためです。 つまり、品質維持のために必要な成分なのですが、それが原因で角膜上皮障害やアレルギー反応が生じる患者も一定数います。 fukumura-ganka(https://fukumura-ganka.jp/20250203.html)
PF点眼液はこの問題を解消するために、単回使用のユニットドーズ型容器(使い切りタイプ)に封入されることが多いです。開封したら1回または数回で使い切り、残液は廃棄するのが原則です。これが基本です。
日本ではヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液をはじめ、緑内障治療薬(タフルプロストなど)のPFタイプが医療機関で広く処方されています。 市販の防腐剤フリー目薬(例:ソフトサンティア)と医療用PF点眼液は、規制上のカテゴリが異なり、管理基準も厳格に設定されています。 my-best(https://my-best.com/21601)
| 項目 | 防腐剤入り点眼液 | PF点眼液(防腐剤フリー) |
|---|---|---|
| 主な防腐剤成分 | ベンザルコニウム塩化物(BAC) | なし |
| 開封後使用期間 | 約1ヵ月 | 使い切り(1回〜数回) |
| ソフトCL装用中の使用 | 原則不可 | 多くの製品で可 |
| 角膜障害リスク | 長期使用で上昇 | 低い |
| 細菌汚染リスク | 防腐剤で抑制 | 開封後は高まる |
医療従事者が見落としがちな落とし穴があります。「【般】ヒアルロン酸Na点眼液0.1%」という一般名処方箋が来た場合、PF点眼液でも通常の防腐剤入りでも調剤可能です。 「点眼液」と「PF点眼液」は別剤形ではなく同じ剤形として扱われるため、薬剤師は処方医への確認なしに変更できるという仕組みです。 sokkin-money(https://sokkin-money.jp/2025/06/04/%E9%98%B2%E8%85%90%E5%89%A4%E7%84%A1%E6%B7%BB%E5%8A%A0%E3%81%AEpf%E7%82%B9%E7%9C%BC%E6%B6%B2%E3%81%A8%E9%98%B2%E8%85%90%E5%89%A4%E5%85%A5%E3%82%8A%E3%81%AE%E7%82%B9%E7%9C%BC%E6%B6%B2%E3%80%81%E4%B8%80/)
ここが問題です。
処方医が「コンタクトレンズ装用中に使用させたい」「防腐剤アレルギーがある」という意図でPF点眼液を想定していても、一般名処方ではその意図が処方箋上に明示されません。 薬局で通常の防腐剤入りを調剤してしまうと、患者が装用したまま点眼してBAC由来の角膜障害を起こすリスクがあります。 kmpa.or(http://www.kmpa.or.jp/com/ganka-com45/tengansiyou-a-5.html)
実際、日本医療機能評価機構のヒヤリハット事例にも「薬剤師がヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液がコンタクトレンズ装用中に使えることを知らなかった」事例が収録されています。 調剤時には防腐剤アレルギーの有無・コンタクトレンズの使用状況を必ず確認することが、ミスゼロに直結します。 yakkyoku-hiyari.jcqhc.or(https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/sharing_case_2016_01.pdf)
参考:防腐剤無添加PF点眼液と一般名処方の注意点(薬剤師向け解説)
防腐剤無添加のPF点眼液と防腐剤入りの点眼液、一般名処方の場合の注意点
BACは細菌の細胞膜だけでなく、角膜上皮細胞の細胞膜にも作用し、タンパク質を変性させます。 界面活性作用による角膜上皮細胞の細胞膜障害は「透過性亢進型角膜上皮障害」として分類されており、フルオレセイン染色で境界不鮮明な染色像として現れます。 kawamotoganka(https://www.kawamotoganka.com/tayori/1131/)
短期使用では症状が出にくいとされています。
問題が顕在化するのは長期・多剤併用のケースです。 緑内障などで複数の防腐剤入り点眼薬を長期継続している患者では、BAC蓄積により点状表層角膜炎(SPK)スコアが有意に上昇することが臨床データで示されています。 senjumachi-ganka(https://www.senjumachi-ganka.com/blog/2018/06/post-30-606655.html)
山口大学眼科の研究では、BAC濃度を最適化したタフルプロストへ変更後12週で、角膜障害スコア(ADスコア)が平均3.4から1.8へ有意に低下し(p<0.0001)、涙液層破壊時間(TBUT)も6.3秒から8.0秒へ改善したと報告されています。 数字で見ると変化量はわずかに見えますが、TBUTが6秒前後というのはドライアイの診断基準(10秒以下)をすでに下回っている状態です。意外ですね。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/40491)
放置すると基底細胞の分裂が障害され、角膜上皮欠損に進展します。 治療にはBACを含まない人工涙液の頻回点眼と消炎剤が必要になるため、予防的にPF製剤に切り替えることのメリットは大きいです。 nishishinjyuku-saito-ganka(https://www.nishishinjyuku-saito-ganka.com/archives/422/)
参考:ベンザルコニウムによる副作用と角膜障害のメカニズム(眼科クリニックによる解説)
ベンザルコニウム|川本眼科
参考:BACによる角膜上皮障害の分類と治療(西新宿さいとう眼科)
点眼薬の角膜上皮障害
PF点眼液を積極的に選択すべき患者像があります。 以下の条件に1つでも該当する場合、医療用PF点眼液への切り替えを検討するのが原則です。 fukumura-ganka(https://fukumura-ganka.jp/20250203.html)
緑内障が条件です。 特に緑内障患者は点眼を生涯続ける必要があるため、早い段階でBAC曝露量を減らす方針をとることが、長期的な角膜保護につながります。 senjumachi-ganka(https://www.senjumachi-ganka.com/blog/2018/06/post-30-606655.html)
薬剤の選択基準として、有効成分と剤形だけでなく「PFか否か」を処方時に明記する習慣を持つことが重要です。 一般名処方で「PF指定」が読み取れない場合、薬局では通常品を調剤することがあるため、処方箋に「PF希望」と記載するか、備考欄に意図を書き添えることを勧めます。 sokkin-money(https://sokkin-money.jp/2025/06/04/%E9%98%B2%E8%85%90%E5%89%A4%E7%84%A1%E6%B7%BB%E5%8A%A0%E3%81%AEpf%E7%82%B9%E7%9C%BC%E6%B6%B2%E3%81%A8%E9%98%B2%E8%85%90%E5%89%A4%E5%85%A5%E3%82%8A%E3%81%AE%E7%82%B9%E7%9C%BC%E6%B6%B2%E3%80%81%E4%B8%80/)
PF点眼液は防腐剤がないぶん、開封後の管理が通常の点眼薬よりはるかに重要になります。これは見落とされがちです。 ic-clinic-ikebukuro(https://ic-clinic-ikebukuro.com/column-preservative-free-eye-drops-recommendation/)
患者指導の場面でも注意が必要です。
外来で処方されたユニットドーズ型PF目薬を「もったいない」と感じた患者が、残液を容器の口を塞いで翌日に使い回すケースが実際に報告されています。 院内での患者指導・服薬指導時に「開封後は1回で使い切る理由」を具体的に説明することが、感染トラブルの予防に直結します。 ic-clinic-ikebukuro(https://ic-clinic-ikebukuro.com/column-preservative-free-eye-drops-recommendation/)
保管環境も確認しておきましょう。多くの医療用PF点眼液は遮光・冷所保存(2〜8℃)が指定されており、常温管理のまま処方箋袋に長時間入れておくだけで変質リスクが上がります。処方時に「冷蔵保存と開封後の廃棄」を口頭で加えるだけで、患者側のリスクを大幅に下げられます。これは使えそうです。
参考:防腐剤無添加点眼薬の特徴と注意点(眼科クリニックによる解説)
「防腐剤無添加」の点眼薬についてのお話|福村眼科