歯科用ワックスの種類と特徴と用途と材料

歯科診療や技工で使用される様々な歯科用ワックスについて詳しく解説します。インレーワックスからシリコンタイプの矯正用ワックスまで、その特性や適切な選び方とは?

歯科用ワックスの種類と特徴と用途

歯科用ワックスの基本情報
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多様な用途

歯科用ワックスは診療や技工の補助材料として幅広く使用されています

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主な分類

パターンワックス、プロセッシングワックス、インプレッションワックスの3種類に大別されます

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材料特性

用途に応じて柔軟性、粘着性、硬度、融点などの特性が異なります

歯科医療の現場では、様々な種類のワックスが使用されています。歯科用ワックスは診療や技工を行う際の補助的な材料として欠かせない存在です。これらのワックスは用途によって物理的特性や機械的特性が異なり、適切なワックスを選択することが治療の成功につながります。本記事では、歯科用ワックスの種類と特徴、用途について詳しく解説していきます。

 

歯科用ワックスの基本分類と特性

歯科用ワックスは大きく分けて3つのタイプに分類することができます:パターンワックス、プロセッシングワックス、インプレッションワックスです。

 

パターンワックスは、多くの歯科修復物や補綴物を最初に作製する際に使用されます。このワックスは後に永久的な材料(鋳造用金合金、コバルト-クロム-ニッケル合金、ポリメチルメタクリレート樹脂など)に置き換えられます。

 

プロセッシングワックスは、義歯製作過程で使用されるワックスで、最終的な製品には含まれません。

 

インプレッションワックスは、印象採得に使用されるワックスです。

 

これらのワックスは、それぞれの用途に合わせて柔軟性、粘着性、硬度、融点などの特性が調整されています。例えば、インレーワックスは精密な形態再現が必要なため、流動性と硬化後の安定性が重視されます。一方、ユーティリティーワックスは室温で柔軟性と粘着性を持ち、トレーの修正などに適しています。

 

歯科用ワックスのパターンワックスの種類と用途

パターンワックスには以下のような種類があります。

  1. インレーワックス:歯科鋳造のワックスパターンとして使用されます。青、緑、紫などの色のスティックやケーキ状で提供され、インレー、クラウン、固定式部分義歯に使用されます。

     

  2. クラウンワックス:クエスト社のクラウンワックスでは、グレー(#1)、オレンジ(#2)、グリーン(#3)、バイオレット(#4)、レッド(#5)、グリーンソフト(#6)など様々な色と硬さのバリエーションがあります。

     

  3. キャストラインワックス:鋳造クラスプのワックスパターン作製に使用されます。ビニルラインワックスとも呼ばれ、細い線状のパターンを作るのに適しています。

     

  4. シートワックス:鋳造床のワックスパターンに使用されます。薄いシート状になっており、広い面積のパターン作製に便利です。

     

  5. ベースプレートワックス:義歯床の製作に使用されます。ピンク色の長方形のシートで提供され、完全および部分義歯のモデリングに理想的です。融点は59/60°Cで、寒冷地用のバージョンも利用可能です。

     

パターンワックスは、Type I(軟質、輪郭やベニアの準備に使用)とType II(中硬質、口腔内でのパターン作製に使用、温暖な気候向け)に分けられることもあります。

 

歯科用ワックスのユーティリティーワックスと多目的ワックス

ユーティリティーワックスは、その名の通り多目的に使用できる汎用性の高いワックスです。主な特徴と用途は以下の通りです。

  1. 室温での柔軟性と粘着性:ユーティリティーワックスは室温で十分な粘着性と展延性を持っています。これにより、様々な用途に応用することができます。

     

  2. トレー修正への応用:特に既製トレーの不足部分の築造に便利です。印象用トレーのあらゆる部分の補足築造やボクシングにも使用されます。

     

  3. 色調バリエーション:レッド、ピンク、ホワイトなどの色調があり、用途に応じて選択できます。

     

  4. 硬さのバリエーション:ソフトタイプとハードタイプがあり、ソフトタイプは柔軟性が高く、ハードタイプは形状安定性に優れています。

     

  5. 製品例
    • プロユーティリティーワックス(松風):48本(100g)包装
    • ユーティリティーワックス(クエスト):ピンクタイプはベタつきが少なく、レッドタイプは高粘着タイプ。36本入(125g)

多目的ワックスの中には、特殊な用途に特化したものもあります。

  • カラートーニングワックス(調色用カラーワックス):築盛や彫刻がしやすい9色のワックスで、多彩な色数を微妙に調色することによって、天然歯に近い色調を立体的に再現できます。

     

  • ダイカラーワックス(支台歯再現用):高光透過性材料のように支台歯の色調に影響される補綴装置を製作する際に使用する材料です。

     

  • ビーディングワックス(床辺縁のワックスアップと研磨形成用):パラフィンワックスより濃いピンク色なので、辺縁部のタレ等による盛りすぎなどを確認でき、正確な歯肉形成が可能です。

     

歯科用ワックスの矯正用ワックスの特徴と選び方

矯正治療中に装置が口腔内の軟組織を傷つけることを防ぐために、矯正用ワックスが使用されます。矯正用ワックスは大きく分けて2種類あります。

  1. ペーストタイプ
    • 柔らかくて扱いやすいのが特徴です
    • 使用方法:指先で適量を取り、柔らかくなるまで丸めてから、矯正器具の気になる部分に押し付けます
    • 簡単に成形できるため、細かい部分にもフィットしやすい
    • 特にお子さんの矯正器具に適しています
    • 欠点:水分に弱く、食事や飲み物の際に外れやすいので、こまめな取り替えが必要です
  2. シリコンタイプ
    • 耐久性があり、長時間の使用に適しています
    • 弾力があり、しっかりと矯正器具に密着します
    • ペーストタイプに比べて外れにくく、水分や食事にも比較的強い
    • 使用方法:適量を取り、矯正器具の痛みや不快感のある部分に押し付けます
    • 装着後も外れにくいため、忙しい日常を送る患者さんに便利です
    • シリコン素材はアレルギーを起こしにくいので、安心して使用できます

矯正用ワックスの選び方のポイント。

  • 患者の年齢や生活スタイルに合わせて選択する
  • お子さんや頻繁に交換できる環境ならペーストタイプ
  • 忙しい大人や長時間の保持が必要な場合はシリコンタイプ
  • アレルギーの心配がある場合はシリコンタイプが安心

矯正用ワックスは、矯正治療中の不快感を軽減し、口腔内の傷を防ぐために重要な役割を果たします。適切なタイプを選択することで、患者の快適さと治療の継続性を確保することができます。

 

歯科用ワックスの粘着性と密着度の実験結果と応用

歯科用ワックスの粘着性と密着度は、特に精密な修復物を作製する際に重要な要素です。日本歯科技工士会の実験によると、様々なワックスの中で密着度合が最も良かったのはMetalorのABF-WAX MAGINで、次いでDENTAURUMのSPCALCASTING WAXでした。

 

この実験では、ソフトワックス4種類とハードワックス1種類を使用し、それぞれの特徴と作業温度を比較しています。結果から見えてきた重要なポイントは以下の通りです。

  1. 粘性の影響:密着性を求めるなら、粘性の大きいワックスを選択する必要があります。サラリとした性質のワックスよりも、粘性のあるワックスの方が密着度が高いことが示されています。

     

  2. ワックスの組み合わせ:ベースとなるワックスの剥がれがないことが、良い結果につながります。例えば、SSWHITEのWaxNo.6 CASTING REDは、ハードでサラリとした性質を持っているため、マージンの強度も保たれます。

     

  3. 部位別の理想的なワックス:実験結果から、それぞれの部位に理想と考えられるワックスの条件が示されています。例えば、DENTAURUMのSPCALCASTING WAXは、その柔らかさを活かしてアンダーカットに使用するのが最適とされています。

     

  4. アンダーカットへの応用:アンダーカット量の多い部分では、削れながらも弾性変形をするワックスが適しています。DENTAURUMのワックスは、インレー等の隅角に使用すると最大の性質を発揮します。

     

  5. 弾性変形と強度のバランス:Metalorのワックスにも弾性変形はありますが、ある程度の硬度があるため、弾性変形範囲を超えると割れてしまう可能性があります。

     

この実験結果は、歯科技工士がワックスを選択する際の参考になります。特に精密な修復物を作製する場合、適切なワックスの選択と組み合わせが重要です。また、ワックスの特性を理解することで、より効率的な作業と高品質な結果を得ることができます。

 

歯科用ワックスの最新技術と環境に配慮した材料開発

歯科用ワックスの分野でも、技術革新と環境への配慮が進んでいます。最新の開発動向と環境に配慮した材料について見ていきましょう。

 

デジタル技術との融合
CAD/CAMシステムの普及に伴い、デジタルワックスアップの技術も進化しています。従来のワックスアップをスキャンしてデジタル化する方法だけでなく、直接デジタルデザインを行い、そのデータを基に3Dプリンターでワックスパターンを出力する技術も実用化されています。これにより、精度の向上と作業時間の短縮が可能になっています。

 

ミリングワックス(マシナブルワックス)
CAD/CAMシステムで直接削り出すことができるミリングワックスも開発されています。これらのワックスは、従来のワックスよりも硬く、切削加工に適した特性を持っています。精密な形態再現が可能で、特に複雑な形状の修復物製作に適しています。

 

環境に配慮したバイオワックス
従来の石油由来のワックスに代わり、植物由来の原料を使用したバイオワックスの開発も進んでいます。これらのワックスは、生分解性が高く、環境への負荷が少ないという利点があります。特に、パラフィンワックスやシートワックスなど、比較的大量に使用されるワックスでは、環境に配慮した製品への切り替えが進んでいます。

 

アレルギー対応ワックス
従来のワックスに含まれる成分によるアレルギー反応を防ぐため、低アレルゲン性のワックスも開発されています。特に、患者の口腔内で直接使用する矯正用ワックスなどでは、アレルギー対応製品の需要が高まっています。

 

温度応答性ワックス
特定の温度で性質が変化する温度応答性ワックスも開発されています。これらのワックスは、作業時には柔らかく扱いやすい状態を保ち、冷却すると迅速に硬化して安定した形態を維持するという特性を持っています。この特性により、作業効率の向上と精度の向上が期待できます。

 

リサイクル可能なワックス
使用済みのワックスを回収し、再利用するシステムも一部で導入されています。特に、大量に使用されるパターンワックスなどでは、リサイクルによる資源の有効活用と廃棄物の削減が進められています。

 

これらの新技術と環境に配慮した材料開発は、歯科医療の質の向上と環境負荷の軽減の両立を目指しています。今後も、より高性能で環境に優しい歯科用ワックスの開発が進むことが期待されます。

 

歯科医療従事者は、これらの新しい材料や技術について常に最新の情報を得ることで、より良い治療を提供することができるでしょう。また、環境に配慮した製品を選択することで、持続可能な歯科医療の実現に貢献することができます。

 

以上、歯科用ワックスの種類と特徴、用途について詳しく解説しました。適切なワックスを選択することで、より精密で高品質な歯科治療が可能になります。歯科医療の現場では、これらのワックスの特性を理解し、症例に応じた最適な選択をすることが重要です。