歯科の印象材の種類と特徴や選択基準について

歯科治療で使用される様々な印象材の種類と特性を解説します。アルジネートからシリコーン印象材まで、それぞれの用途や長所・短所を詳しく紹介。あなたの治療にはどの印象材が最適なのでしょうか?

歯科の印象材の種類と特徴

印象材の基本情報
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印象材とは

歯や口腔内の形状を正確に複製するための材料で、補綴物製作に不可欠です

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分類方法

弾性印象材と非弾性印象材に大別され、用途によって使い分けられます

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選択基準

精度要求、アンダーカットの有無、コスト、操作性などを考慮して選択します

歯科の印象材とアルジネート印象材の基本

歯科治療において印象材は、患者さんの口腔内の状態を正確に再現するために欠かせない材料です。印象材を使用して得られた型(印象)から石膏模型を作製し、それをもとに補綴物(クラウン、ブリッジ、義歯など)を製作します。

 

アルジネート印象材は、歯科臨床で最も一般的に使用される印象材の一つです。主成分はアルギン酸ナトリウムと石膏で、アルギン酸は海藻から抽出される成分です。粉末と水を混ぜ合わせることで化学反応が起こり、ゲル状に変化します。

 

アルジネート印象材の化学反応は以下のようになります。

カリウム(ナトリウム)アルギネート + 硫酸カルシウム二水和物 + 水 → アルギン酸カルシウム + 硫酸カリウム(ナトリウム)

アルジネート印象材の特徴。

  • 操作性が良く、比較的安価
  • 混水比(粉と水の割合)が重要で、適切な比率を守る必要がある
  • 作業時間は45〜75秒程度
  • 硬化時間は1〜4.5分(水温により変動)
  • 保存状態に注意が必要(湿った状態で保管)

アルジネート印象材は、研究用模型の作製や義歯製作の一次印象など、比較的精度要求が低い場合に適しています。

 

歯科の印象材におけるシリコーン印象材の種類と特性

シリコーン印象材は、より精密な印象が必要な場合に使用される高精度の弾性印象材です。主に「縮合型」と「付加型」の2種類があります。

 

縮合型シリコーン印象材
縮合型シリコーン印象材は、硬化時にアルコールを放出するため、若干の収縮が生じます。これにより寸法安定性がやや劣りますが、操作性は良好です。

 

付加型シリコーン印象材(加成型シリコーン印象材)
付加型シリコーン印象材は、硬化時に副産物を放出しないため、寸法安定性に優れています。現在の精密印象用としては最も信頼性の高い材料の一つとされています。

 

シリコーン印象材の粘度による分類。

  1. エクストラライトボディ(超低粘度)
  2. ライトボディ(低粘度)
  3. レギュラーボディ(中粘度)
  4. ヘビーボディ(高粘度)
  5. パテタイプ(超高粘度)

付加型シリコーン印象材の主な特徴。

  • 優れた寸法安定性(収縮がほとんどない)
  • 詳細な表面再現性
  • 複数の模型を同じ印象から作製可能
  • 親水性を高めた製品も開発されている
  • 比較的高価

シリコーン印象材は、クラウン・ブリッジの最終印象や、インプラント治療など高い精度が要求される場合に適しています。

 

歯科の印象材としてのポリエーテルとチオコールラバーの比較

ポリエーテル印象材とチオコールラバー(ポリサルファイド)印象材は、どちらも弾性印象材に分類されますが、特性に違いがあります。

 

ポリエーテル印象材
ポリエーテル印象材は、シリコーン印象材と並んで高精度な印象が得られる材料です。本質的に親水性であるため、湿潤環境でも良好な印象が得られる特徴があります。

 

ポリエーテル印象材の特徴。

  • 優れた寸法安定性
  • 本来の親水性による優れた濡れ性
  • 高い弾性回復力
  • 硬化後の硬さが比較的高い
  • 独特の香りがある

チオコールラバー印象材(ポリサルファイド印象材)
チオコールラバー印象材は、かつては精密印象用として広く使用されていましたが、現在ではシリコーンやポリエーテルに代替されつつあります。

 

チオコールラバー印象材の特徴。

  • 良好な弾性と引裂強度
  • 寸法安定性はシリコーンやポリエーテルより劣る
  • 硬化時間が比較的長い
  • 独特の臭気がある
  • 操作性がやや劣る

これらの印象材の選択は、必要な精度、作業時間、コスト、患者の状態などを考慮して行われます。特に湿潤環境でのコントロールが難しい場合は、親水性の高いポリエーテル印象材が選択されることがあります。

 

歯科の印象材における非弾性印象材の種類と用途

非弾性印象材は、硬化後に弾性を持たず、アンダーカット部分の印象採得には適していませんが、特定の用途で重要な役割を果たします。

 

印象用石膏(プラスター)
印象用石膏は、最も古くから使用されている非弾性印象材の一つです。

 

特徴。

  • 硬化後は硬く、弾性がない
  • 精密な表面再現性
  • 無歯顎の印象に使用されることがある
  • 現在ではほとんど使用されない

印象用コンパウンド
印象用コンパウンドは、熱可塑性の非弾性印象材です。

 

特徴。

  • 加熱すると軟化し、冷却すると硬化する
  • 個人トレー製作のための一次印象に使用
  • トレーの辺縁形成にも利用される
  • 操作に熟練を要する

酸化亜鉛ユージノール印象材(ZOE)
酸化亜鉛ユージノールは、ペースト状の非弾性印象材です。

 

特徴。

  • ベースペースト(酸化亜鉛、不活性油、樹脂)とキャタリストペースト(ユージノール、促進剤、充填剤)から構成
  • 無歯顎の最終印象に使用
  • 粘膜の細部を正確に再現
  • 硬化時間は4〜5分
  • ユージノールアレルギーに注意が必要

印象用ワックス
印象用ワックスは、特定の用途に限定して使用される非弾性印象材です。

 

特徴。

  • 咬合採得(バイト採得)に使用
  • 熱可塑性で操作が比較的容易
  • 精密な印象には不向き

非弾性印象材は、特定の臨床状況や補助的な用途で今でも使用されていますが、多くの場合は弾性印象材に置き換えられています。

 

歯科の印象材選択の基準と最新のデジタル印象技術

印象材の選択は、治療の種類、必要な精度、患者の状態などを考慮して行われます。また、近年ではデジタル技術の発展により、従来の印象材を使用しない光学印象も普及しつつあります。

 

印象材選択の基準

  1. 治療の種類と要求される精度
    • 研究用模型:アルジネート印象材
    • クラウン・ブリッジ:付加型シリコーン印象材、ポリエーテル印象材
    • 総義歯:アルジネート(一次印象)、ZOE(二次印象)
  2. 患者の口腔内状態
    • アンダーカットの有無と程度
    • 口腔内の湿潤状態
    • 嘔吐反射の有無
  3. 作業時間と硬化時間
    • 短時間で済ませたい場合:速硬化タイプのアルジネート
    • 精密な印象が必要な場合:適切な作業時間を確保できるシリコーン
  4. コストパフォーマンス
    • 日常的な使用:アルジネート(比較的安価)
    • 高精度が必要な場合:シリコーン、ポリエーテル(高価だが精度が高い)

印象採得の手順とコツ
印象採得を成功させるためのポイント。

  • 適切なトレーの選択(上顎は上顎結節を、下顎はレトロモラーパッドを覆うサイズ)
  • 印象材の適切な混和(混水比の遵守)
  • 正しい挿入方向と圧接
  • 完全硬化までの待機
  • 適切な撤去方向

デジタル印象技術(光学印象)
従来の印象材を使用せず、口腔内スキャナーで直接デジタルデータを取得する方法が普及しつつあります。

 

光学印象のメリット。

  • 患者の不快感の軽減(特に嘔吐反射のある患者に有効)
  • 時間の短縮
  • データの即時確認と修正が可能
  • デジタルデータの長期保存と共有が容易
  • 模型製作のステップを省略可能

現在、インビザライン矯正などで広く使用されており、今後さらに普及が進むと予想されています。

 

印象材の選択は、歯科治療の成功に大きく影響する重要な要素です。従来の印象材の特性を理解しつつ、新しいデジタル技術も取り入れることで、より精密で患者にやさしい治療が可能になります。

 

歯科材料ハンドブック - シリコーン印象材の特性について詳しく解説されています
クラウンブリッジにおける優れた最終印象へのアプローチ - 印象採得の臨床テクニックが紹介されています
印象材の選択と適切な使用は、補綴治療の成功に直結する重要な要素です。各印象材の特性を理解し、症例に応じた適切な材料を選択することで、より精密な補綴物の製作が可能になります。また、デジタル技術の進歩により、従来の印象材を使用しない方法も増えていますが、基本的な印象材の知識は歯科医療従事者にとって今後も重要な基盤となるでしょう。