根尖性歯周組織炎は、単純な「症状の有無」では判定できない複雑な疾患です。なぜなら、歯髄が既に失活している場合、患者の痛み認識と実際の炎症程度が一致しないためです。特に初期段階では、患者が「歯が浮く」「何となく違和感がある」程度の訴えしかなく、一般的な歯周病と区別しにくいのが実情です。
転んで歯を打った経験や、以前に歯内療法を受けた歯については、症状がなくても定期的なレントゲン確認が必須です。なぜなら慢性根尖性歯周炎では、患者が自覚症状を感じないうちに骨の吸収が進行するケースが報告されているためです。
根尖病変(根尖周囲の黒い影)の大きさと自覚症状は必ずしも相関しません。径3mm以下の小さな病変でも急性化すれば激痛が出ますし、10mm以上の大きな病変でも完全無症状のまま経過することがあります。
患者の訴えで「疲れた時だけ腫れる」「風邪を引くと痛くなる」というパターンは、根尖性歯周組織炎の慢性潜伏型を示唆する重要な臨床情報です。これは免疫力の低下により、病巣内の感染が顕性化するためです。
体温が高くなると痛みが増加するのは、骨内の膿圧が上昇し、圧迫による刺激が増すからです。特に午後から夜間にかけて痛みが増す場合、炎症の活動性が高い状態を示しています。
根尖性歯周組織炎でできた膿は、通常「うみが溜まっている」と表現されますが、実際には骨内に炎症性肉芽組織が充満している状態が大半です。このため、抗菌療法だけで治癒を期待することは難しく、根管内の感染源除去が根本治療になります。
診断確定には、臨床診査とレントゲン所見の両立が不可欠です。特に打診反応は重要で、根尖性歯周組織炎では「垂直打診陽性」(歯の長軸方向の叩打で反応)が特徴的です。
これは根の周囲組織の炎症を直接反映します。
デンタルX線撮影で根尖部に黒い透過像が認められることが診断の決め手ですが、初期段階では不明瞭な場合もあります。このため、同一歯の経時的レントゲン比較が診断精度を高めます。特に根管治療の施術歯で、以前に根充材が見えていたレントゲンとの比較により、新たな根尖病変形成を敏感に捉えられます。
電気歯髄診や冷温刺激試験は、歯髄生活性の判定に用いられます。根尖性歯周組織炎を伴う歯は、多くの場合で歯髄が失活しているため、これらの試験に無反応です。つまり、反応がない場合は根管内感染の可能性が高いことを示唆しています。
根管治療後も症状が持続する場合、いくつかの原因が考えられます。最も多いのは根管内に細菌が残存している状態で、特に複雑に分岐する根管を完全に清掃・消毒できていないケースです。根管治療の成功率が60~80%程度とされるのは、解剖学的な複雑性による制限があるためです。
歯根が破折している場合、破折部位を通じて細菌が継続的に周囲組織に侵入するため、根管治療だけでは治癒不可能です。この場合、抜歯が避けられない選択肢となります。
慢性根尖性歯周炎が急性化した場合、症状が一度軽減すると患者が治療完了と勘違いして来院中断することがあります。瘻孔形成で膿が排出されると痛みが消失するため、このタイミングでの患者教育が重要です。治療完了までは3~4週間以上の通院継続が必要です。
瘻孔は、歯根の先端部に蓄積した膿が歯肉を貫いて口の中に排出される現象です。患者は圧迫感や腫脹感の軽減を感じるため、一時的に症状改善と認識しますが、この段階でも根管内の感染は完全には除去されていません。
瘻孔が形成される場合、その位置から感染源の歯を特定できることもあります。典型的には、患歯の歯根先端直上の歯肉に瘻孔が形成されますが、時に根の側枝感染に由来する異所性瘻孔も認められます。
外歯瘻(皮膚に形成された瘻孔)の場合、患者の美容的な懸念が高まり、治療の重要性をより強調する必要があります。単なる歯科疾患ではなく、感染が頭部軟組織にまで波及していることを示すため、治療の緊急性が増します。瘻孔の消失には、根管治療による感染源除去後、2~4週間程度要することを患者に説明することで、治療中断を防げます。
複数の根尖性歯周組織炎病変がある場合、患者の主訴と実際の病巣位置が一致しないことがあります。これは関連痛の現象で、主に三叉神経領域内での神経支配の重複による影響です。
治療優先順位は、症状の激しさより、診査所見で判定します。根尖病変の大きさ、破折の有無、既往根管治療の成否を総合評価して、治療難度と治療効果の期待値を勘案します。難治性の病変は初期段階での外科的根尖切除も検討すべき選択肢です。
患者が特定の歯の痛みを訴えている場合でも、診査で複数歯の打診陽性や異常所見が認められれば、全体像を患者に丁寧に説明する必要があります。一つの歯の治療だけでは全体的な改善が得られない場合があるためです。
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徳島大学病院のQ&Aページに、根尖性歯周炎と歯周病の鑑別および治療について、臨床判断の詳細が記載されています。
済生会本部のページでは、根尖性歯周炎の病態メカニズム、症状分類、予防法について、患者向けと医療者向けの両視点から解説されています。