患者さんが部分矯正なら10万円から始められると期待していても、最終支払額は検査料と調整料で大きく変わります。
同じマウスピース矯正でも部分矯正が10万~40万円に対し、全体矯正は60万~100万円と6倍以上の開きが生じるケースもあります。患者さんが「前歯だけ治す」と考えていても、精密検査で奥歯の噛み合わせに問題が見つかれば、全体矯正へ変更を勧める必要があります。
部分矯正で対応できるのは、隙間が前歯に限定され、隙間の合計が2mm程度で軽度、かつ奥歯の噛み合わせに大きな問題がないケースです。正中離開(上前歯の中央の隙間)で、前から3番目の犬歯から犬歯までの計12本(上下合わせて)を動かす範囲に限られます。
一方、全体矯正が必要になるのは隙間が全体的に広がっているか、骨格的な問題が原因で、奥歯の噛み合わせまで根本的に改善する必要があるケースです。この判断は初診時の診断で決まるため、患者さんへの事前説明が重要です。
費用差は治療範囲の違いだけでなく、治療期間の長さにも反映されます。部分矯正なら2ヶ月~1年で終了できるのに対し、全体矯正は1~3年を要するため、調整料が複数回発生することになります。
矯正装置の種類によって費用が大きく異なり、マウスピース矯正が最も安価で、裏側矯正(舌側矯正)が最も高額です。実はこの差は単なる装置代の違いではなく、施術の難易度と精密度の違いを反映しています。
マウスピース矯正は10万~40万円で部分矯正を開始できるため、患者さんの初期負担が低いメリットがあります。ただし1日20時間以上の装着を自己管理する必要があり、装着時間を守れない患者さんでは治療が計画通りに進みません。また軽度のすきっ歯にしか対応できないため、症例選択が重要です。
表側ワイヤー矯正(30万~60万円の部分矯正)は歴史が長く治療実績が豊富で、軽度から重度まで幅広い症例に対応できます。装置が目立つデメリットがありますが、歯を動かす力が強いため、隙間が比較的大きいケースにも有効です。
裏側矯正(40万~70万円の部分矯正)は装置が見えないため審美性が高いですが、歯の裏側の複雑な形状に対応するため高い技術が要求され、費用が最も高くなります。滑舌への一時的な影響も出やすく、患者さんへの事前説明が必須です。
「矯正装置代30万円」と提示されても、患者さんが実際に支払う総額はその1.5倍近くになることがあります。初診時に総額を明示しないと、後からのトラブルに発展する可能性があります。
矯正治療の総費用は複数の項目で構成されています。初診相談料は無料から1万円程度、精密検査と診断料は3万~6万円で、レントゲン撮影や歯型採りなどの検査に費やされます。
矯正装置代はこの後に決定されるのです。
治療中の調整料(処置料)は1回の通院で3千~1万円かかり、ワイヤー矯正なら3~4週間ごとに通院が必要です。つまり2年の治療期間なら24回以上の調整が必要になり、24万~24万円の調整料が上乗せされます。
治療後に歯が元の位置に戻るのを防ぐため、保定装置(リテーナー)代が2万~6万円別途発生します。この装置は半永久的に装着し続ける必要があるため、定期的な買い替え費用も想定すべきです。
歯科医院によっては「トータルフィー制度」で最初に総額を提示するところもあります。この場合は後からの追加費用がないため、患者さんの安心感が高まります。事前に料金体系を明確にすることが、患者さん満足度を高める重要な要素です。
治療期間が長いほど調整料が増加するため、同じ装置でも期間の長さで最終費用が大きく変わります。短期治療を望む患者さんは費用増加の覚悟が必要です。
部分矯正なら2ヶ月~1年で終了できますが、全体矯正では1~3年かかります。部分矯正が3万円×12ヶ月で36万円に対し、全体矯正は3万円×36ヶ月で108万円の調整料が発生する可能性があります。
マウスピース矯正の場合、最初にすべてのマウスピースを製作するため、調整料がかからないシステムの医院もあります。この場合は初期費用に全て含まれているため、総額の把握が容易です。
一方ワイヤー矯正は毎回調整が必要なため、通院が増えると費用も増加します。「早く終わらせたい」と患者さんが希望する場合、矯正力を強くすると痛みが増すリスクがあることも説明する必要があります。
また治療期間が延長するケースも想定すべきです。患者さんが指示を守らない場合(マウスピースの装着時間不足など)や、治療中に歯が予想と異なる動きをした場合、計画より6ヶ月~1年延長することもあります。これは追加の調整料に直結するため、初診時に「予定より延長する可能性がある」と伝えておくべきです。
医療費控除とモニター制度の活用が、患者さんの自己負担を減らす現実的な方法です。医療費控除は1年間の治療費が10万円を超えた場合、確定申告で所得税の還付を受けられる制度です。
「見た目を良くしたい」という審美目的の矯正は医療費控除の対象外ですが、歯科医師が「噛み合わせが悪く、機能的な問題がある」と診断した場合は対象になる可能性があります。患者さんが確定申告時に領収書を提出すれば、支払った医療費の一部が戻ってくるのです。
モニター制度は、治療経過の写真やアンケート提供を条件に、通常より10~30%安い価格で矯正治療を受けられる制度です。多くの歯科医院は患者さんのビフォーアフター写真を宣伝に活用したいため、モニター募集を定期的に実施しています。
デンタルローンの活用も検討価値があります。毎月の分割払いで金利がかかるものの、一括払いで生活が圧迫される患者さんにとって、月1万~2万円の返済なら家計管理がしやすい場合があります。
ただし「費用を抑えたい」という名目で、実際には必要な全体矯正を部分矯正で無理に対応するのは避けるべきです。後戻りのリスクが高まり、数年後に再治療が必要になり、結果として総費用が増加することになります。
記事に関連する権威性のあるリンク:日本矯正歯科学会の矯正治療に関する情報
すきっ歯矯正にかかる費用と期間に関する詳細解説
患者さんへの正確な費用説明は、診療所の信頼性を大きく左右します。初診時に「装置代だけ」を提示するのではなく、検査料・調整料・保定装置代を含めた総額を事前に明示することで、患者さんの満足度が高まります。