あなたが診た患者の歯周病が治療しても改善しないのは、実は婦人科疾患が原因かもしれません。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、女性ホルモンのバランスが大きく乱れる疾患です。通常、月経周期では数十個の卵胞が育ち始めますが、そのうち1個だけが十分に成長して排卵します。しかし、PCOS患者ではこの成長プロセスが途中で止まり、卵巣内に発育不完全な小さな卵胞がたくさん蓄積してしまいます。この現象は、脳の下垂体から分泌されるゴナドトロピン(排卵を促すホルモン)の分泌異常か、男性ホルモンの過度な増加が原因だと考えられています。
月経がきちんと来ないということは、単なる婦人科の問題ではなく、患者の全身状態にも影響を与える重要な兆候です。月経が規則的に来ないと、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に産生されません。つまり、これは患者の口腔内にも直結する全身のホルモンバランス異常なのです。
具体的には、PCOS患者の約50~70%がインスリン抵抗性を持っています。つまり、血糖を低下させるホルモンであるインスリンが効きにくい体の状態です。この状態では、身体全体に慢性的な軽い炎症が続き、歯ぐきの炎症も高まりやすくなります。
PCOS患者を診療すると、通常の歯周病患者では見られない複合的な特徴が観察されます。最新の研究では、PCOS患者と健康女性の歯周病患者を比較したとき、以下の点で有意差が認められました。PCOS患者でポケットが深い場合、歯肉からの出血がより顕著に見られ、臨床的付着喪失(歯と歯ぐきが付着している距離の喪失)も大きくなります。
この理由は、PCOS患者の体全体に広がった「軽い炎症」にあります。健康な人の体が一定の火加減で燃えているとすれば、PCOS患者の体は弱い火がずっと燃え続けている状態です。歯ぐきも同じく、この慢性炎症の影響を受けているため、ちょっとした刺激で反応が過剰になりやすいのです。
つまり、診療時に「なぜこの患者の歯周病はこんなに治りにくいのか」と疑問を感じたら、それはホルモンバランス異常のサインかもしれません。歯肉炎を引き起こす歯周病菌自体は同じですが、患者の免疫応答の仕方が異なるため、通常の対症療法だけでは改善しないことがあります。
特に注目すべき所見は、PCOS患者の78.6%が歯間清掃(フロス)を全く行わないという点です。これは月経不順に伴う疲労感や、痛み・かゆみへの過敏反応があり、患者自身が十分なセルフケアを継続できていない可能性を示唆しています。
月経周期と歯ぐきの健康は密接に関連しています。月経前期(月経の7~10日前)になると、女性ホルモンのプロゲステロンが高まります。この時期に健康な若い女性25名を対象とした研究では、驚くべき数値が出ました。月経第2日と第20日(月経前期)を比較したとき、歯ぐきの炎症指数が約3.5倍に上昇し、歯垢の量も2.4倍に増加したのです。
PCOS患者では、この月経周期自体が不規則なため、ホルモン変動も予測できません。つまり、常に「月経前期の炎症リスク」を持ちながら生活している可能性があります。月経不順がある患者を診査したときに、歯ぐきが常に腫れぼったい、出血しやすい状態が見られるのは、このホルモン異常が背景にあるからです。
さらに、月経不順がある女性は、歯の痛みを感じるリスクが1.3倍高く、咀嚼時の不快感を感じるリスクは1.33倍高いという大規模調査結果もあります。患者が「何だか歯が痛い」と訴えるとき、虫歯が原因ではなく、ホルモンバランスの異常が引き起こす全身的な変化が関係しているかもしれません。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状と治療法(エナ女性クリニック)
PCOS治療には複数の薬物療法があり、歯科診療現場でも認識しておく必要があります。メトホルミンという血糖値を低下させる薬がよく使用されます。この薬は、インスリン抵抗性を改善することで、体全体の炎症を軽減する効果があります。つまり、PCOS患者がメトホルミン服用中であれば、歯周病治療の予後が改善される可能性があります。
一方、妊娠を希望しない患者には低用量ピル(エストロゲン・プロゲステロン配合剤)が処方されることがあります。
ピル服用者の場合、特に注意が必要です。
研究によると、避妊薬使用者の臨床的付着喪失は有意に増加し、36.2%が歯肉疾患を有しています。これはピルに含まれるホルモンが、歯ぐきの血管透過性を増加させ、炎症物質(プロスタグランジンE2)の産生を促進するためです。
患者が「このごろ歯ぐきがぶよぶよしている」と訴える場合、ピル開始後3~12カ月の観察期間中かもしれません。この時期は特に歯周病に対する警戒心を高め、患者への口腔衛生指導と定期検診間隔の短縮を検討するべきです。治療抵抗性がある場合は、処方医に相談し、患者のホルモン治療内容を把握することが重要です。
PCOS患者に対して矯正治療やインプラント治療を計画する際には、ホルモンバランスの不安定さを考慮する必要があります。これらの治療は長期にわたるため、患者の全身状態が治療期間中に大きく変動する可能性があります。
矯正治療を例に挙げると、矯正力による歯周組織への負荷は、通常の患者であれば適切に管理できます。しかし、PCOS患者では全身の炎症背景が異なるため、歯周組織の反応が予測しづらくなります。矯正治療中の患者が「歯ぐきが腫れやすくなった」と訴える場合、単なる矯正力による影響ではなく、その時期のホルモン変動が関与しているかもしれません。
インプラント治療の成功は、骨との結合(オッセオインテグレーション)にかかっています。PCOS患者のなかでも、特に肥満を伴う患者(BMI25以上)では、骨密度の低下傾向が報告されています。また、インスリン抵抗性が強い患者では、術後の骨形成が遅延する可能性があります。つまり、骨が柔らかい患者やインスリン抵抗性が強い患者では、インプラント埋入深度や加重開始時期を通常より慎重に設定すべきです。
特に注意すべき点は、PCOS患者の糖尿病移行リスクです。放置されたPCOS患者の中には、2型糖尿病へ進展する者も少なくありません。糖尿病患者の骨代謝は大きく変化するため、治療計画の変更が必要になる可能性があります。治療開始前に、患者の婦人科での診断内容と現在のホルモン治療状況を確認することが必須です。
PCOS患者へのホルモン治療内容を把握し、必要に応じて治療計画を修正することで、より安全で予後良好な歯科診療が実現します。患者のBMIが高い、または糖尿病の家族歴がある場合は、より詳細な聴取と連携が重要です。
全身状態の把握が、患者の長期的な口腔健康を守る鍵となるのです。

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