視診だけで筋性か関節性か判断するのはダメ
開閉口路検査は、顎関節症の診断において最も基本的かつ重要な臨床検査の一つです。前頭面における最大開閉口時の切歯点の動きを記録することで、顎関節や咀嚼筋の機能状態を評価できます。
検査の実施にあたっては、患者を座位にして頭部を安定させることが重要です。患者に正面を向いてもらい、リラックスした状態で自然に開口してもらいます。このとき、術者は患者の正面に位置し、上下中切歯の正中を基準として開閉口運動を観察します。
どういうことでしょうか?
開閉口路は、直線的な動きか、2mm以上左右に偏位して最大開口時には正中に戻るか、それとも最大開口時に2mm以上正中から左右に偏位したままであるかを記録します。この2mmという基準値は、顎関節症治療の指針2018において明確に示されている診断上の重要な閾値です。
記録方法としては、視診による観察が基本となります。患者の開閉口運動を繰り返し観察し、運動路のパターンを把握することが求められます。複数回の開閉口運動を行わせることで、運動路の再現性や安定性も評価できます。
日本顎関節学会「顎関節症治療の指針2018」では、開閉口路検査の具体的な実施方法と診断基準が詳しく解説されています
より精密な評価が必要な場合には、下顎運動測定装置を用いた記録も行われます。磁気センサーや光学式センサーを使用することで、三次元的な下顎運動路を数値化し、客観的なデータとして記録することが可能です。
つまり視診と機器測定を組み合わせることで、より正確な診断が実現できるということですね。
開口量の測定は、開閉口路検査と同時に実施される重要な評価項目です。通常、上下顎前歯の切端間距離を測定し、40mm以上が正常範囲とされています。これは成人の指3本分を縦に並べた幅にほぼ相当します。
測定にはノギスやスケールを使用します。上下中切歯の切縁間距離を正確に計測することが基本ですが、前歯の垂直的被蓋(オーバーバイト)の量を考慮する必要があります。オーバーバイトが大きい場合は、その分を加算して実際の開口量を算出します。
厳しいところですね。
開口量が40mm以下の場合は開口制限ありと判定されます。指2本分程度(約25mm以下)しか開かない場合は、顎関節や咀嚼筋に明らかな機能障害が存在すると考えられます。特に指1本分程度しか開かない重度の開口障害では、早急な治療介入が必要となります。
開口量の測定では、自力最大開口量(有痛最大開口量)と受動的最大開口量の両方を評価することが重要です。受動的最大開口量は、術者が下顎を他動的に開口させたときの最大値を測定します。この2つの測定値の差が、筋性と関節性の開口制限を鑑別する重要な指標となります。
受動的最大開口量と有痛最大開口量の差が2mm以上で弾力性がある場合は筋性の開口制限を疑います。一方、この差がほとんどなく抵抗感が強い場合は顎関節性の開口制限が示唆されます。この鑑別は治療方針の決定に直結する重要な情報です。
日本補綴歯科学会の「顎機能障害の診療ガイドライン」には、開口量測定の詳細な手順と解釈方法が記載されています
開口量は男女差や顔の大きさの差も考慮する必要があります。一般的に日本人では、男性で40~45mm、女性で35~40mmが平均的な開口量とされています。患者の体格や年齢も評価の際に参考にすべき要素です。
結論は個別評価が必要ということです。
開閉口路の視診では、単に切歯点の動きを観察するだけでなく、顎関節部の動きも同時に評価することが重要です。両手の人差し指を患者の顎関節外側極に軽く当て、開閉口運動時の下顎頭の動きを触知します。
触診では下顎頭の動きの対称性、円滑さ、移動範囲を評価します。正常な開口運動では、下顎頭は下方かつ前方に滑らかに移動します。片側の下顎頭の動きが制限されている場合、開閉口路はその側に偏位することが多くなります。
この触診情報と視診情報を統合することで、より正確な病態把握が可能になります。
触診時には顎関節雑音の有無も確認します。開閉口運動時にクリック音(コクっという感じの持続時間の短い単音)やクレピタス(捻髪音のような持続時間の長い摩擦音)が触知されるかを記録します。クリック音は関節円板障害、クレピタスは変形性顎関節症を示唆する重要な所見です。
顎関節部の圧痛の有無も評価項目に含まれます。外耳道前方約1cmの位置に示指または中指を当て、軽く圧迫して疼痛の有無を確認します。顎関節痛障害では、この部位に明確な圧痛が認められることが多くなります。
開閉口運動時の筋肉の緊張状態も触診で評価します。咬筋や側頭筋を触診し、筋の硬さや圧痛の有無を確認することで、咀嚼筋痛障害の診断に役立つ情報が得られます。特に咀嚼筋痛障害では、筋肉に明確な圧痛や硬結が触知されます。
痛いですね。
視診と触診を組み合わせた総合的な評価により、開閉口路の異常が筋性の問題によるものか、関節性の問題によるものかの鑑別が可能になります。この鑑別診断が適切な治療法の選択につながります。
開閉口路の異常パターンは、顎関節症の病態を反映する重要な臨床所見です。開口路が患側に偏位する場合、非復位性関節円板前方転位や顎関節痛障害による下顎頭の運動制限が疑われます。
具体的には、開口初期から患側に偏位し、最大開口時にも偏位したままの場合、片側性の非復位性関節円板障害の可能性が高くなります。この場合、転位した関節円板が下顎頭の前方移動を機械的に制限するため、患側の下顎頭の移動量が健側に比べて少なくなります。
開口初期に健側に偏位し、その後患側に戻りながら開口していくS字状の開閉口路が観察される場合は、復位性関節円板前方転位が示唆されます。開口時のクリック音と併せて評価することで、診断の確実性が高まります。
意外ですね。
開閉口路がほぼ直線的であっても、開口量が制限されている場合は両側性の病変や咀嚼筋痛障害が疑われます。両側性の非復位性関節円板障害や咀嚼筋の緊張により、対称的な運動制限が生じることがあります。
開閉口運動の再現性も診断上重要な情報です。毎回同じパターンの開閉口路を示す場合は器質的な問題が存在する可能性が高く、運動路が不安定で毎回異なるパターンを示す場合は機能的な問題や筋肉のコントロール不良が考えられます。
開口路の偏位量を定量的に評価することも重要です。2mm以上の偏位が認められる場合は、明らかな機能異常が存在すると判断されます。偏位量が大きいほど、病態が重度である可能性が高くなります。
日本顎関節学会の「顎関節症の診断基準(2019)」には、開口路の患側偏位が診断基準の一つとして明記されています
開閉口路の異常パターンを正確に把握し、他の臨床所見と総合的に評価することで、適切な診断と治療計画の立案が可能になります。
これは使えそうです。
開閉口路検査の精度を高めるためには、補完的な機能検査を組み合わせることが効果的です。咀嚼運動の観察やタッピング運動の評価により、顎運動の総合的な機能状態を把握できます。
咀嚼運動の観察では、患者にチューインガムなどを咀嚼してもらい、下顎の動きのパターンや左右のバランスを評価します。偏咀嚼が認められる場合、機能的な問題や疼痛回避行動が示唆されます。偏咀嚼は顎関節症の増悪因子となるため、早期に発見して対応することが重要です。
側方運動や前方運動の評価も開閉口路検査と併せて実施します。下顎を左右に動かしてもらい、移動距離や円滑さを評価することで、顎関節の可動性や筋肉の機能状態についての情報が得られます。正常では左右それぞれ10mm程度の側方運動が可能です。
歯科衛生士は開閉口路検査の補助や記録において重要な役割を担います。患者の開閉口運動を観察し、偏位の有無や開口量を記録することは歯科衛生士の業務範囲内です。また、検査前の患者説明や検査中の患者誘導も歯科衛生士が担当することで、スムーズな検査実施が可能になります。
検査結果の記録様式を標準化することも重要です。開口量の数値、開閉口路のパターン(直線型、S字型、偏位型など)、顎関節雑音の有無と種類、圧痛の部位と程度などを体系的に記録することで、経時的な変化の追跡や治療効果の評価が容易になります。
定期的な再評価も重要な実践です。
患者教育においても歯科衛生士の役割は大きくなります。開閉口路検査の意義や、検査結果が示す病態について患者にわかりやすく説明することで、患者の理解と治療への協力を得やすくなります。セルフチェック方法の指導により、患者自身が症状の変化に気づきやすくなります。
開閉口路検査は簡便ながら多くの情報が得られる検査です。視診、触診、機能検査を組み合わせた総合的な評価により、顎関節症の正確な診断と適切な治療計画の立案が可能になります。日常臨床において歯科医師と歯科衛生士が協力し、標準化された手順で検査を実施することが、質の高い顎関節症診療につながります。
開閉運動路の理解と臨床応用については、歯科医師・歯科衛生士向けの専門サイトで詳しい解説が公開されています
開閉口路検査の所見を適切に解釈し、患者の訴えや他の検査結果と照合することで、個々の患者に最適な治療アプローチを選択できます。基本的な検査を確実に実施し、得られた情報を正しく評価することが、顎関節症診療の基盤となるのです。
〇〇なら問題ありませんという判断基準を明確にすることも大切です。