併用すると単独投与より副作用が少ない
イブプロフェンとアセトアミノフェンは、全く異なるメカニズムで鎮痛効果を発揮します。両者の違いを理解することが、適切な薬剤選択の基盤となります。
イブプロフェンはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に分類され、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することで作用します。COXはアラキドン酸からプロスタグランジンを合成する過程で重要な役割を果たしており、このプロスタグランジンが炎症や痛み、発熱を引き起こす主要な物質です。イブプロフェンはCOXを競合阻害することでプロスタグランジンの合成を抑制し、末梢組織での炎症反応を直接抑えることができます。
つまり炎症の原因に働きかけるのです。
一方、アセトアミノフェンの作用機序は完全には解明されていませんが、主に中枢神経系に作用すると考えられています。脳の体温調節中枢や痛覚中枢に働きかけ、解熱と鎮痛効果を示します。アセトアミノフェンも中枢性のCOX阻害作用を持つとされていますが、末梢でのCOX阻害作用はほとんどありません。加えて、カンナビノイド受容体を介した鎮痛機序も報告されています。
抗炎症作用がほぼないのが特徴です。
この作用機序の違いが、両薬剤の臨床的特性の差異を生み出します。イブプロフェンは炎症を伴う痛みに特に有効で、歯科領域では抜歯後や歯髄炎など炎症性疼痛に適しています。アセトアミノフェンは炎症を伴わない痛みや発熱に対して使用されることが多く、安全性の高さから小児や妊婦にも投与可能です。
日本ペインクリニック学会の解説ページでは、NSAIDsとアセトアミノフェンの作用機序の違いについて詳細な情報が掲載されています。
歯科領域における術後疼痛管理において、イブプロフェンとアセトアミノフェンのどちらがより効果的かは重要な臨床的課題です。
Baileyらによる2014年のコクランシステマティックレビューでは、親知らず抜歯後の鎮痛効果について重要な知見が報告されています。イブプロフェン400mgは、アセトアミノフェン1000mgよりも優れた鎮痛効果を示しました。
これは作用機序の違いに起因します。
具体的には、イブプロフェン400mgの鎮痛効果はアセトアミノフェン1000mgと比較して統計学的に有意に高く、痛みの程度を50%以上軽減するために必要な治療人数(NNT)がイブプロフェンの方が小さいという結果でした。これは歯科の画像で言えば、はがき1枚分とはがき2枚分くらいの差に相当するインパクトです。
鎮痛効果は明確に異なるということですね。
この効果の差は、イブプロフェンが持つ抗炎症作用によるものと考えられます。抜歯後の痛みは主に炎症反応によって引き起こされるため、末梢で直接炎症を抑制するイブプロフェンが優位性を持つのです。アセトアミノフェンは中枢性の作用が主体であるため、炎症性疼痛に対しては若干効果が劣る傾向にあります。
ただし、アセトアミノフェンにも明確な利点があります。胃腸障害のリスクが非常に低く、腎機能への影響も少ないため、消化性潰瘍の既往がある患者や高齢者、腎機能低下患者には第一選択となります。Weilらのコクランレビュー(2007年)でも、アセトアミノフェンは親知らず抜歯後の鎮痛薬として安全で有効であることが確認されています。
安全性では優れているのです。
三鷹歯科の詳細な解説記事には、抜歯後疼痛管理における両薬剤の効果比較について豊富なエビデンスが紹介されています。
作用機序が異なる2つの鎮痛薬を併用することで、相加的または相乗的な効果が期待できます。歯科領域では、この併用療法が注目を集めています。
Mooreらによる2015年のコクランレビューでは、市販の鎮痛薬21種類の急性期疼痛に対する効果を比較しました。その結果、イブプロフェン400mgとアセトアミノフェン1000mgの併用が、他のどの鎮痛薬よりも優れた効果を示したのです。この併用によるNNT(必要治療数)は最も小さく、2名弱の患者を治療すれば1名で50%以上の痛みの軽減が得られるという驚くべき結果でした。
歯内療法後の疼痛に関する研究でも、同様の結果が報告されています。Elzakiらの2016年の研究では、歯髄炎で術前に中等度から重度の痛みがある患者65名を対象に、イブプロフェン600mg単独群とイブプロフェン600mg+アセトアミノフェン1000mg併用群、プラセボ群で比較しました。併用群で最も疼痛軽減が得られたという結果です。
つまり併用が最強ということですね。
この併用効果の理論的根拠は明確です。イブプロフェンは末梢で炎症性プロスタグランジンの産生を抑制し、アセトアミノフェンは中枢神経系で痛みの伝達を抑制します。作用点が異なるため、相加的な効果が得られるのです。しかも、それぞれの用量を抑えることができるため、副作用のリスクも低減できます。
米国の歯科臨床では、イブプロフェン400mg+アセトアミノフェン1000mgを6〜8時間ごとに投与する方法が推奨されています。この組み合わせは、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)であるオキシコドン10mg+アセトアミノフェン1000mgの併用に匹敵する、またはそれを上回る鎮痛効果を持ちながら、吐き気や便秘などのオピオイド特有の副作用を回避できるという大きなメリットがあります。
日本薬剤師会の情報センターでは、NSAIDsとアセトアミノフェン併用の有効性に関する最新エビデンスを紹介しています。
鎮痛薬を選択する際には、効果だけでなく副作用のリスクも慎重に評価する必要があります。イブプロフェンとアセトアミノフェンは、副作用プロファイルが大きく異なります。
イブプロフェンを含むNSAIDsの最も頻度の高い副作用は胃腸障害です。NSAIDs潰瘍という専門用語があるほど、この副作用は臨床的に重要な問題となっています。プロスタグランジンは胃粘膜を保護する作用も持っているため、COXを阻害するとこの保護作用が低下し、胃粘膜が傷つきやすくなります。2010年のシステマティックレビューによると、イブプロフェンによる上部消化管出血のリスクは用量依存的に上昇し、特に服用開始後1週間以内に高率に発生します。
初期のリスクが高いのです。
また、NSAIDsは腎臓の輸入細動脈を収縮させ、腎血流量を減少させるため、腎機能障害のリスクもあります。特に高齢者や既に腎機能が低下している患者では注意が必要です。さらに、アスピリン喘息の既往がある患者では、イブプロフェンを含むNSAIDsの使用は禁忌となっています。妊娠中、特に妊娠20週以降の使用は胎児動脈管早期閉鎖のリスクがあるため避けるべきです。
一方、アセトアミノフェンは胃腸障害や腎障害のリスクが非常に低く、安全性の高い鎮痛薬とされています。日本ペインクリニック学会の解説でも、アセトアミノフェンにはNSAIDsのような胃腸障害や腎障害の副作用はないと明記されています。ただし、アセトアミノフェンには肝障害のリスクがあります。特に過量投与や長期使用、アルコール常飲者では重篤な肝障害を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
用量は厳守すべきです。
日本の添付文書では、アセトアミノフェンを含む他の薬剤(市販の総合感冒薬など)との併用により、アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあると警告されています。患者さんに市販薬の成分確認を指導することが重要です。
興味深いことに、2023年にアセトアミノフェン含有製剤の禁忌事項が改訂され、「消化性潰瘍、重篤な血液の異常、重篤な腎障害、重篤な心機能不全、アスピリン喘息又はその既往歴」が禁忌から削除されました。これにより、アスピリン喘息患者にも1回300mg以下であれば使用可能となりました。ただし用量依存的に喘息発作を誘発するリスクがあるため、慎重な投与が求められます。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の資料では、NSAIDsの妊婦への使用に関する最新の注意喚起が詳細に記載されています。
エビデンスと日本の保険診療制度を踏まえた上で、歯科臨床における実践的な使い分け戦略を考える必要があります。患者の状態に応じた適切な選択が求められます。
まず基本原則として、炎症を伴う術後疼痛に対してはイブプロフェンが理論的には優れています。しかし、日本ではイブプロフェン製剤(ブルフェンⓇ)に「抜歯後の鎮痛」という適応が添付文書に記載されていないため、保険診療では処方しにくいという制度上の制約があります。
これは重要な問題です。
そのため、実際の歯科臨床では以下のような処方パターンが推奨されます。第一の選択肢として、アセトアミノフェン(カロナールⓇ)500mg1日6錠分3を定時投与で数日分処方し、さらにロキソプロフェン60mg(ロキソニンⓇ)を頓用で5回分程度追加するという方法があります。アセトアミノフェンをベースにし、必要時にNSAIDsを追加できる体制を整えるのです。この方法では、アセトアミノフェンの安全性を活かしつつ、痛みが強い場合はNSAIDsで対応できます。
第二の選択肢は、健康な若年成人患者であれば、ロキソプロフェン60mgを1日3錠分3で定時投与し、アセトアミノフェン500mg2錠を頓用で処方するという逆のパターンです。この場合、NSAIDsの鎮痛効果を主体としながら、胃腸障害などの副作用が出た場合にアセトアミノフェンに切り替えられる柔軟性を持たせます。
患者背景による使い分けも重要です。以下のような患者ではアセトアミノフェンを第一選択とすべきです。
• 消化性潰瘍の既往がある患者
• 高齢者(特に75歳以上)
• 腎機能低下患者(eGFR 60未満)
• アスピリン喘息の既往がある患者(ただし1回300mg以下に制限)
• 妊婦(特に妊娠20週以降はNSAIDs禁忌)
• 小児患者
一方、以下のような場合はNSAIDs(ロキソプロフェンなど)の使用を優先的に検討します。
• 明らかな炎症を伴う急性疼痛
• 若年で健康な患者
• 短期間(3〜5日程度)の使用
• アセトアミノフェンで効果不十分な場合
併用療法についても、日本の添付文書には「他の消炎鎮痛剤との併用は避けることが望ましい」と記載されているため、正式に併用を推奨することは難しい状況です。しかし、海外のエビデンスでは併用の有効性と安全性が示されており、個々の症例で慎重に判断する余地はあります。患者説明と同意を十分に行った上で、必要に応じて併用を検討することも選択肢の一つです。
処方する際は、患者に対して以下の点を必ず説明しましょう。市販薬にアセトアミノフェンが含まれていないか確認すること、空腹時の服用は避けること、アルコールとの同時摂取は避けること、痛みが治まったら漫然と服用を続けないことなどです。特に肝機能障害のリスクを軽減するため、アセトアミノフェンの過量投与には細心の注意を払う必要があります。
かわせみデンタルクリニックの詳細な解説では、根管治療後の疼痛管理における併用療法の実践的なプロトコルが紹介されています。