あなたの患者さんの「ただの口内炎」が、実は3年後に難病診断される可能性があります。
ベーチェット病の口腔症状は、通常の口内炎とは異なる明確な特徴を持っています。患者さんが「いつもと違う口内炎」と訴える場合、それはベーチェット病の可能性を示しています。
口腔粘膜のアフタ性潰瘍は、唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の潰瘍が現れます。最も特徴的なのは、潰瘍の表面に白色または黄色い膜が張り、周囲が明確に赤く腫れることです。写真で見ると、境界線がはっきりしており、一目でただの口内炎とは違うことがわかります。
最初に見落とされやすい理由は、初期段階では大きさがさほど大きくないからです。ただし、潰瘍は同時に複数個現れることが多く、患者さんの話を聞くと「最近頻繁に口内炎ができる」という訴えになります。
結論は、複数個同時発症が目安です。
診断の何年も前から口腔潰瘍が現れることがあり、患者さんは「治ったと思ったら、別の場所にできた」という繰り返しに悩まされています。症状自体は1~2週間で治りますが、その後、長い年月にわたって何度も繰り返し現れるため、患者さんは「これは普通の口内炎ではない」と気づき始めます。
口腔潰瘍だけでなく、皮膚症状の出現が他の診断ポイントになります。歯科医が患者さんの顔や身体の変化に気づくことで、診断へのきっかけが生まれます。
皮膚症状は主に3つのタイプがあります。第一は結節性紅斑で、足首から下腿にかけて赤く腫れた発疹が現れ、皮膚の下に硬いしこりを触れることができます。
痛みを伴い、見た目でも腫脹が明らかです。
写真では、赤紫色のしこりのような発疹が確認できます。
第二は毛嚢炎様皮疹で、顔や首、胸部などにニキビに似た湿疹が出現します。ただし、一般的なニキビと異なり、これらの発疹も繰り返し現れます。患者さんは「大人ニキビがひどくなった」と感じることがあります。
第三は血栓性静脈炎で、下腿などで皮膚表面に近い静脈に沿って痛みや腫れが現れます。このタイプは見過ごされやすく、患者さんが「脚が痛い」と訴えても、単なる筋肉痛と判断されることがあります。皮膚が全体的に過敏になり、かみそりで剃った後が赤くなったり、注射針を刺した跡が腫れたりすることも特徴です。
つまり、小さな刺激で過度な炎症反応が起こります。
口腔症状と皮膚症状に加えて、眼症状が確認されると診断が確定しやすくなります。
眼症状は前眼部と後眼部で異なります。
前眼部では虹彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明(光がまぶしい)、霧視(視界がぼやける)といった症状が現れます。後眼部では網脈絡膜炎により、視力低下が起こります。眼症状は最も重篤なベーチェット病の合併症であり、放置すると失明に至る可能性があります。
外陰部潰瘍は男女で部位が異なりますが、男性では陰嚢や陰茎、女性では大小陰唇や膣粘膜に痛みを伴う潰瘍が現れます。これは口腔内アフタ性潰瘍と似た外形ですが、潰瘍がより深く、瘢痕を残すことがあります。
副症状として関節炎があり、膝、足首、手首などの大関節が腫脹します。変形や強直を残さないことがリウマチとの大きな違いです。ベーチェット病では非対称性に症状が現れ、小関節は侵されません。
この点は鑑別診断で重要になります。
ベーチェット病の診断は臨床症状に基づいています。日本では厚生労働省の診断基準が用いられており、眼症状がない場合は「完全型」と判定されます。
完全型では、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍の3つが必須です。これらの症状がすべて揃うには時間がかかり、平均3年の遅延が生じる理由はここにあります。患者さんが最初に訴えるのは口腔潰瘍であり、皮膚症状の出現まで待つ間、歯科医院では対症療法が続きます。
治療としては、ステロイド外用薬が基本になります。しかし、このお薬では十分な効果が得られない場合、痛風治療薬(コルヒチン)が使用されるようになります。このお薬は本来は痛風の予防と治療に使われますが、ベーチェット病のさまざまな症状に効果があることが発見されています。
歯科医が診断を疑う場合は、患者さんに「他に気になる症状はないか」と尋ねることが重要です。皮膚の発疹、眼の症状、外陰部の潰瘍について聞き出すことで、診断への手がかりが得られます。つまり、口腔症状だけでなく、全身症状を見る視点が必要です。
診断確定後の治療は内科やリウマチ科が担当しますが、その後も口腔潰瘍の管理は歯科医が関わる場合があります。患者さんが最初にどの診療科を受診するかは、症状の認識に大きく影響します。口腔潰瘍が初発症状であれば、歯科医院での対応が診断の時間を短縮する鍵になります。
患者さんが「繰り返す口内炎」と訴える場合、それが通常のアフタ性口内炎なのか、ベーチェット病なのかを区別する必要があります。
見分け方のポイントはいくつかあります。
第一は再発の頻度と時期です。通常のアフタ性口内炎は、特定のきっかけ(口内の傷、ビタミン不足、ストレス)で発生し、その後は比較的長い期間、症状が出ないことが多いです。対してベーチェット病では、治ったと思ったら別の場所に新しい潰瘍が出現する、というサイクルが繰り返されます。患者さんが「年に何度も出現する」または「常に何かしらの潰瘍がある状態」と訴える場合は、ベーチェット病の可能性が高まります。
第二は潰瘍の大きさと深さです。通常のアフタ性口内炎は直径3~5mm程度の小さなものが多いです。対してベーチェット病の潰瘍は直径5mm以上になることもあり、より深い印象があります。ただし、初期段階では大きさに顕著な差がないため、この基準だけでは判断できません。
第三は痛みの強さです。ベーチェット病の口腔潰瘍は強い痛みを伴い、患者さんの食事や会話に支障をきたすレベルになることが多いです。通常のアフタ性口内炎でも痛みがありますが、ベーチェット病では「食べ物がしみる痛み」だけでなく「常に痛みがある」という訴えになります。
これが原則です。
重要な見分け方として、他の症状の有無をチェックすることがあります。患者さんに「目の症状や皮膚の発疹、陰部の症状がないか」を尋ねることで、診断の可能性を高められます。
なら問題ありません。
ベーチェット病の口腔潰瘍は個々の症状では判断が難しく、全身症状を俯瞰する必要があります。そのため、初診時に詳細な問診を行い、患者さんの全体像を把握することが歯科医の重要な役割になります。
ベーチェット病診断サイト - 日本ベーチェット病学会
症状の詳細な説明と診断基準の実例が記載されており、歯科医が患者さんに説明する際の参考になります。
ベーチェット病(指定難病56)- 難病情報センター
診断基準、治療法、予後についての公式情報が提供されており、患者さんの診断が遅延している理由を理解できます。