材料を削れば削るほど、部品の強度は上がることがある。
トポロジー最適化とは、与えられた荷重条件・拘束条件のもとで、材料をどこに残してどこを除去するかを数値計算によって導き出す設計手法です。人間が経験と勘で行ってきた「肉抜き設計」を、コンピューターが数学的に最適解として提示します。
SolidWorksでは「Simulation」アドインの中に「トポロジー最適化」スタディが搭載されています。SolidWorks 2018以降のバージョンから正式に利用できるようになりました。Professional以上のSimulationライセンスが必要ですが、一部の教育機関向けライセンスでも利用可能です。
具体的に何ができるかというと、設計空間(部品の最大外形)を定義し、その中で荷重を受けながら必要な剛性を満たす最小限の材料分布を算出できます。つまり「必要な強さを保ちながら、最大限軽くする」ことが目標です。
金属加工の現場では、アルミ合金や構造用鋼の部品に対してこの手法が使われることが多く、軽量化率は条件次第で40〜70%に達するケースもあります。
結論は、「軽くする」と「強くする」が同時に成立する設計手法です。
実際にSolidWorksでトポロジー最適化を始めるには、まずSimulationアドインを有効にする必要があります。メニューの「ツール」→「アドイン」からSolidWorks Simulationにチェックを入れると、上部タブに「Simulation」が追加されます。
次に、「新しいスタディ」から「トポロジー最適化」を選択します。ここで最初につまずくのが「保存領域」と「設計領域」の概念です。
- 設計領域:材料の除去が許可されている範囲(最適化対象)
- 保存領域:ボルト穴や取り付け面など、絶対に残さなければならない部分
この2つを適切に分けることが、現場で使える形状を得るための最重要ステップです。保存領域を設定しないまま最適化を実行すると、ボルト穴周辺の肉がすべて削られ、製造も組み付けもできない形状が出力されることがあります。
SolidWorksでは、保存領域として指定したい面・エッジ・ボディに対して「保存領域」フィーチャーを追加するだけで設定できます。操作自体はシンプルです。
荷重条件と拘束条件は通常のSimulationスタディと同じ手順で設定します。実際の使用状況を想定した荷重(引張・圧縮・曲げ・ねじりなど)を正確に入力することが、最適化精度を左右します。
トポロジー最適化の結果は、そのままでは製造できない有機的な複雑形状になることがほとんどです。これは現場の金属加工従事者が最も困るポイントの一つです。
SolidWorksのトポロジー最適化スタディには、「製造制約」という設定項目があります。これを使うことで、実際の加工方法に合った形状に絞り込むことができます。
製造制約の種類は以下の通りです。
- 抜き勾配方向:鋳造・鍛造・プレスなど型を使う加工の場合、型を抜ける方向に形状を制限します
- 対称:左右・上下・前後の対称形状を強制します(バランス設計に有効)
- 押し出し:断面形状を一方向に押し出した形に限定します(切削加工・押し出し材向け)
- 回転軸対称:旋盤加工で製造できる回転体形状に限定します
たとえばマシニングセンタで切削加工する部品であれば「抜き勾配方向」を設定することで、工具が届かないアンダーカット形状の発生を防げます。これは使えそうです。
製造制約を使わない最適化は「理想形状」、製造制約を使った最適化は「現実的な加工形状」という理解が基本です。
SolidWorksの製造制約機能の詳細については、Dassault Systèmes公式のヘルプドキュメントに詳しく記載されています。
SolidWorks公式ヘルプ:トポロジー最適化スタディの概要(日本語)
トポロジー最適化スタディでは「何を目標にするか」を明示的に設定します。SolidWorksでは主に以下の2種類の目標から選択します。
- 剛性の最大化(コンプライアンスの最小化):指定した質量削減率を達成しながら、変形を最小にする
- 質量の最小化:指定した剛性(応力・変位の上限)を満たしながら、質量を最小にする
金属部品の軽量化を目的とする場合は「剛性の最大化」を選び、質量削減目標(例:現状比40%削減)を数値で入力するのが一般的です。
質量削減目標を高く設定するほど、形状はより骨格的になります。削減目標30%と70%では、出力形状がまったく異なります。骨格的になりすぎると応力集中が起きやすくなるため、最適化後に必ず静解析で応力確認をすることが原則です。
目安として、アルミ合金ブラケット類では50〜60%削減が現実的な目標になるケースが多いです。これは板金1枚分に相当する軽量化です。
また、SolidWorksのトポロジー最適化では「スムージング」パラメータも調整できます。スムージングを高くすると形状がなめらかになり、3Dプリンタ出力には適しますが、切削加工では逆に加工パスが複雑になります。加工方法に合わせた調整が必要です。
トポロジー最適化の計算が完了すると、SolidWorks上に最適化されたメッシュ形状(STLに近いポリゴン体)が表示されます。しかしこのままでは設計データとして使えません。
SolidWorksには「スムーズなメッシュをSolidWorksジオメトリに変換する」機能が備わっています。最適化結果を右クリックし「SolidWorksボディとして保存」を選択することで、ソリッドボディまたはサーフェスボディに変換できます。
ただし変換されたボディは、フィーチャーツリーを持たないダイレクトボディです。そのため、通常の設計変更(スケッチ編集・パラメトリック変更)はできません。あくまで「形状参照」として使い、そこから新規のスケッチを起こして設計し直すアプローチが現場では主流です。
具体的な流れはこうです。
1. 最適化ボディをグレー半透明で表示させる
2. 骨格ラインをトレースして新規スケッチを作成
3. 押し出し・フィレット・穴あけなど通常フィーチャーで再設計
4. 再設計モデルにSimulation静解析をかけて強度検証
この「トレース→再設計→検証」の3ステップが基本です。
再設計の参考として、日本機械学会が公開しているトポロジー最適化の設計事例集も有用な情報源です。
日本機械学会公式サイト:設計工学・システム部門の技術資料(トポロジー最適化関連の事例報告あり)
この見出しは、他の解説記事ではほとんど触れられていない「現場の失敗例」に特化した独自視点のセクションです。
失敗例の第1位は「荷重条件が実態と合っていない」ケースです。解析上では1方向の静荷重だけを設定しても、実際の使用環境では振動・衝撃・複合荷重がかかります。1方向荷重のみで最適化した部品を現場に投入し、振動疲労で早期破損したという事例が国内の製造業でも報告されています。
第2の失敗は「メッシュが粗すぎる」ことです。計算時間を短縮しようとメッシュを粗く設定すると、細部の形状精度が落ち、意図した応力分布が得られません。目安として、部品の最小肉厚に対してメッシュサイズを1/3以下に設定することが推奨されています。
第3の失敗は「安全率の設定漏れ」です。SolidWorksのトポロジー最適化は、入力した荷重に対して最適解を出すだけです。安全率(通常2〜3倍)を荷重に掛け算してから最適化を実行しなければ、ギリギリの強度しか持たない部品ができ上がります。意外ですね。
第4の失敗は「熱処理・溶接後の変形を考慮していない」ことです。最適化後の薄肉・複雑形状部品は、溶接熱や焼入れ処理によって変形しやすい形状になっている場合があります。板厚2mm以下の薄肉部が最適化結果に含まれていたら、その部分の製造可能性は製造部門と必ず事前確認が必要です。
現場での失敗を防ぐには、設計部門と加工部門が最適化スタディの設定段階から協議する体制が条件です。SolidWorksのトポロジー最適化を単なる「形状自動生成ツール」として使うのではなく、設計根拠を議論するための「提案ツール」として位置づけることが、金属加工の現場では重要です。
製造制約の詳細や実際の加工事例については、産業技術総合研究所(産総研)が公開している技術報告書にも有用な情報があります。
産業技術総合研究所(産総研)公式サイト:製造技術・構造最適化に関する研究報告