JIS規格のテープ剥離試験で「合格」を出し続けているのに、実は試験方法が規格外だったケースが現場で3割近く報告されています。
テープ剥離試験に関するJIS規格は、大きく分けて「クロスカット法」と「Xカット法」の2種類の試験方法に対応しています。代表的なのはJIS K 5600-5-6(塗料一般試験方法—第5部:塗膜の機械的性質—第6節:付着性(クロスカット法))です。この規格は国際規格であるISO 2409を基にしており、金属素地への塗膜の密着性を評価するために金属加工現場で広く採用されています。
もう一方の重要な規格がJIS H 8630(めっきの密着性試験方法)です。めっき皮膜の密着性評価に特化しており、テープ剥離試験はその中の一試験方法として位置づけられています。塗装とめっきでは評価対象が異なるため、どちらの規格を適用すべきかを現場で混同しているケースが少なくありません。
つまり、試験目的によって適用規格が変わります。
さらに、JIS G 3312(塗装溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)やJIS K 5551(構造物用さび止めペイント)など、製品規格の中にテープ剥離試験を品質確認手段として組み込んでいる規格も多数存在します。これらは製品ごとに合否基準が異なるため、試験を実施する前に必ず製品仕様書と照合する必要があります。
規格の適用範囲を間違えると、合格品が不合格扱いになることもあります。金属加工の現場では「とりあえずクロスカット法でやっておく」という慣習が根付いている場合がありますが、それが納入先の要求規格と一致しているかどうかは別問題です。
参考:JIS K 5600-5-6の概要(日本工業規格データベース)
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList
クロスカット法の手順は、一見シンプルに見えてじつは細部に規定が多いです。まず素地の準備として、試験面は平滑であることが求められ、試験前24時間以上の養生時間が必要です。この養生時間を省略している現場が散見されますが、塗膜が十分に硬化していない状態で試験を行うと、本来よりも低い評価が出てしまい、製品の不当な不合格につながります。
カット作業では、専用のマルチブレードカッターを使い、1〜2mmのグリッド間隔で塗膜に達するまで切り込みを入れます。この「塗膜に達するまで」という条件が重要で、素地まで達してはいけません。切り込みが浅すぎると正確な密着評価ができず、深すぎると素地への傷が試験結果に影響します。
切り込み深さの確認は、意外と難しいです。
カット後は、JIS K 5600-5-6で規定された幅25mmの感圧接着テープ(規格適合品)をカット部に密着させ、指で強くこすって完全に押し付けます。この押し付けが不十分だと、テープと塗膜の間に気泡が残り、評価結果が実際より低く出ることがあります。押し付け後60±5秒以内に、テープを約60°の角度でできるだけ速く引き剥がします。
引き剥がしの角度と速度も規格で定められています。現場の実態として、テープをゆっくり剥がしているケースが多いですが、これは規格逸脱に当たります。速く引き剥がすほど塗膜への負荷が高くなるため、ゆっくり剥がすと甘い評価になる傾向があります。
参考:塗膜の付着性試験(クロスカット法)の解説(一般社団法人 日本塗料工業会)
https://www.toryo.or.jp/
JIS K 5600-5-6では、試験後の剥離状態を0から5の6段階に分類します。この分類は国際規格ISO 2409と共通であり、輸出品の品質証明にも直結します。
各分類の意味は以下の通りです。
| 分類 | 状態の説明 | 剥離面積の目安 |
|---|---|---|
| 0 | カットの縁が完全に滑らか、剥れなし | 0% |
| 1 | カットの交差点に小さなはく離 | 5%未満 |
| 2 | カットの縁または交差点に沿ったはく離 | 5〜15%未満 |
| 3 | カットの縁の部分的または全体的な大きなはく離、またはますの一部が部分的にはく離 | 15〜35%未満 |
| 4 | カットの縁に沿った大きなはく離または、いくつかのますが部分的または全体的に剥れている | 35〜65%未満 |
| 5 | 分類4を超えるはく離 | 65%以上 |
一般に分類0または1が「合格」とされることが多いですが、納入先の仕様によって許容される分類が異なります。これが原則です。
注意しなければならないのは、「分類2だから不合格」とは必ずしも言えない点です。例えば薄膜仕上げの装飾用途では分類1以下が必須とされる一方、工業用防食塗装では分類2まで許容する場合があります。仕様書に明記されていない場合は、発注者との事前合意が不可欠です。
また、評価は必ず試験後直ちに行うことが求められています。時間が経過すると剥離状態が変化する場合があり、後から評価しても規格的に有効とは言えません。これは意外と見落とされがちなポイントです。
テープ剥離試験の結果は、試験環境の温湿度に大きく左右されます。JIS K 5600-5-6では、試験は標準状態(温度23±2℃、相対湿度50±5%)で行うことが原則とされています。この条件から外れた環境での試験は、結果の再現性が著しく低下します。
夏場の工場内では気温35℃以上になる場合があり、そのような高温環境ではテープの粘着力が変化して剥離挙動が通常と異なります。厳しいですね。冬場の乾燥した環境(湿度20%以下)でも塗膜の柔軟性が変わり、本来よりも脆く評価される傾向があります。
試験環境の管理は、見落とされやすいです。
テープの品質管理も重要な要素です。JIS規格に適合したテープであっても、保管状態が悪いと粘着力が劣化します。具体的には、直射日光の当たる場所や高温多湿の倉庫で保管したテープは、開封直後から粘着力が規定値を下回っている場合があります。同一ロット番号のテープを試験期間中に統一して使用し、保管期限内のものだけを使うことが信頼性確保のための基本です。
試験前の素地確認も怠れません。油分・ゴミ・結露などが試験面に付着していると、塗膜の本来の密着性よりも著しく低い評価が出ます。現場では「きれいに見えるから大丈夫」という判断で省略されることがありますが、IPA(イソプロピルアルコール)による脱脂を試験前に必ず実施するのが標準的なプロセスです。
テープのロット管理と環境記録をセットで残すことが条件です。試験結果に問題が出たとき、環境データとテープ管理記録が揃っていれば原因究明が格段に速くなります。逆に記録がなければ、どの工程に問題があったか特定できず、改善策を打てないまま不良が再発します。
テープ剥離試験は「合否を確認するだけ」の用途に留めている現場が多いですが、じつはデータを蓄積することで塗装工程の品質傾向分析に活用できます。これは使えそうです。
たとえば、同一製品でも試験ロットによって分類1と分類2を行き来している場合、下地処理のバラつきか塗料の希釈率の変動が原因である可能性が高いです。試験結果と工程記録(塗装日、塗料ロット、塗装膜厚、乾燥条件など)を紐づけて管理することで、品質のばらつきの根本原因を特定できるようになります。
結論はデータの一元管理です。
また、テープ剥離試験は破壊試験であるため、全数検査には不向きです。ここで重要になるのがサンプリング頻度と代表性の確保です。JIS Z 9015(計数値検査に対する抜取検査手順)などの抜取検査規格を組み合わせることで、合理的な検査計画を立案できます。生産ロットごとに検査頻度と合格品質水準(AQL)を設定しておくことが、過剰検査と検査不足の両方を防ぐための鍵になります。
さらに、近年では画像解析ツールを用いた剥離面積の自動測定が導入される現場も増えています。目視評価では評価者間の判定ばらつき(いわゆる「官能評価のブレ」)が問題になりますが、スマートフォンのカメラと専用アプリを使えば剥離面積をピクセル単位で定量化することができます。国内でも塗膜評価用の画像解析ソフトが複数リリースされており、試験精度の均一化手段として注目されています。
試験記録の電子化と画像保存を同時に進めることで、第三者監査や顧客への品質証明書の提出時にも対応しやすくなります。品質トラブルが発生した際の証跡としても有効で、クレーム対応のコストと時間を大幅に削減できる可能性があります。
参考:塗膜密着性試験の実施と記録管理に関する解説(産業技術総合研究所)
https://www.aist.go.jp/