耐油性試験JISの規格と金属加工現場での実践的な活用法

耐油性試験のJIS規格は金属加工の現場でどう活用すべきか?試験方法や判定基準、見落としがちな注意点まで、現場担当者が知っておくべき知識を徹底解説します。

耐油性試験JISの規格を金属加工現場で正しく活用する方法

JIS規格に準じた耐油性試験さえ通れば、どんな油でも長期使用できると思っていませんか?実はそれで製品クレームが年間数十件発生している現場があります。


この記事の3つのポイント
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JIS耐油性試験の基本と種類

JIS K 6258などの代表的な規格の試験方法・浸漬条件・判定基準を整理し、どの規格が自社製品に該当するかを把握できます。

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試験油の選定と現場での注意点

IRM901・IRM902・IRM903などの標準試験油と、実使用環境との乖離がもたらすリスクを具体的な数値とともに解説します。

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試験結果の読み方と品質管理への応用

質量変化率・体積変化率・硬さ変化の許容範囲と、その数値を現場の品質管理に落とし込む具体的な手順を紹介します。


耐油性試験JISの代表規格:JIS K 6258の試験方法と適用範囲

耐油性試験において最も広く参照されるJIS規格が「JIS K 6258(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム—液体に対する耐性の求め方)」です。この規格は、ゴム材料が各種液体(油・溶剤・水など)に浸漬されたときの体積変化・質量変化・機械的性質の変化を測定するための手順を定めています。金属加工の現場では、シール材・Oリング・振ゴムなどの部品選定時にこの規格が直接関係してきます。


試験の基本手順は「試験片の作製 → 初期寸法・質量の測定 → 規定の試験液に一定温度・時間で浸漬 → 取り出し後の寸法・質量・硬さを再測定 → 変化率を算出」という流れです。シンプルに見えますが、浸漬温度のずれが±2℃あるだけで体積変化率が数パーセント異なるケースもあるため、温度管理は厳格に行う必要があります。


試験条件として特に重要なのが「浸漬時間」で、JIS K 6258では72時間(3日間)が標準とされています。これはASTM D 471との整合を意識した設定です。ただし、製品仕様書や取引先の要求によって168時間(7日間)や240時間(10日間)の長期浸漬試験を求められることも珍しくありません。条件が違えば結果も変わります。





























項目 標準条件(JIS K 6258) 備考
浸漬時間 72時間 取引先要求で168h・240hも
試験温度 23℃±2℃(常温)または高温指定 高温試験は70℃・100℃・125℃が多い
試験液量 試験片体積の20倍以上 液の劣化を防ぐため
測定項目 質量変化率・体積変化率・硬さ変化 引張強さ・伸びも追加可


JIS K 6258の適用対象は「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム」ですが、金属加工現場で使用されるパッキンやホース類の多くがこの規格の試験結果を品質証明書(ミルシート相当書類)として添付しています。規格番号だけでなく、どの試験液・どの温度・どの時間の条件か、を必ずセットで確認するのが原則です。


参考:JIS K 6258の規格詳細はJSA(日本規格協会)のWebストアで閲覧・購入できます。


JIS K 6258:2016 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム—液体に対する耐性の求め方 | JSA Webdesk


耐油性試験JISで使う標準試験油IRM901・IRM902・IRM903の違いと選定基準

試験油の選定は、耐油性試験の結果を左右する最重要ポイントの一つです。JIS K 6258では、ASTM規格と整合した「IRM(International Reference Material)油」と呼ばれる標準試験油を使用します。IRM901・IRM902・IRM903の3種類があり、それぞれアニリン点(油の芳香族成分の含有量を示す指標)が異なります。


これが核心です。アニリン点が低いほど芳香族成分が多く、ゴムを膨潤させる力が強くなります。




























試験油 アニリン点(℃) 膨潤力 対応する実使用環境の例
IRM901 124℃前後(高い) 弱い 鉱物油系潤滑油・マシン油
IRM902 93℃前後(中程度) 中程度 一般的な切削油・作動油
IRM903 70℃前後(低い) 強い 芳香族系溶剤・高性能エンジン油


金属加工現場でよく使われる水溶性切削油や不水溶性切削油は、組成が製品ごとに大きく異なります。IRM902で合格していても、現場で使っている実際の切削油との芳香族成分の割合が大きく違えば、実使用環境ではゴム部品が予想以上に膨潤・劣化する可能性があります。これは見落としやすいリスクです。


現場での対策として、試験油と実使用油の「アニリン点」を比較することが有効です。油のメーカーに問い合わせればアニリン点データを入手できるケースがほとんどです。実使用油のアニリン点がIRM902より明らかに低い(芳香族成分が多い)場合は、IRM903での追加試験を検討するのが賢明です。


参考:切削油の種類と特性については、日本機械工業連合会の技術資料も参考になります。


日本機械工業連合会(JMF)公式サイト | 機械工業に関する技術・規格情報


耐油性試験JISの判定基準:質量変化率・体積変化率の許容範囲と見方

試験結果の読み方を知っておかないと、数値が出ても判断できません。JIS K 6258では測定方法の手順を規定していますが、「合否の基準値」そのものは各製品規格や取引先の仕様書に委ねられています。つまりJIS K 6258は「測り方の規格」であり、「合格ラインの規格」ではないのです。


これが条件です。合否ラインは必ず別の規格か仕様書で確認します。


現場でよく参照される判定基準の一例として、自動車部品の分野ではJIS D 2602(自動車用燃料ホース)やJIS B 2401(Oリング)などの個別製品規格が体積変化率の許容範囲を定めています。Oリングの場合、NBR(ニトリルゴム)材質でIRM902・70℃・70時間の条件における体積変化率は「0〜+25%」が一般的な許容範囲として設定されることが多いです。



  • 📌 質量変化率(%):浸漬前後の質量差を浸漬前質量で割った値。油を吸収すると「+」、成分が溶出すると「−」になります。

  • 📌 体積変化率(%):浸漬前後の体積差を浸漬前体積で割った値。ゴムの膨潤・収縮を最も直接的に示す指標です。

  • 📌 硬さ変化(ポイント):浸漬後のデュロメータ硬さから浸漬前の値を引いた差。膨潤すると硬さが下がる(マイナス)傾向があります。


体積変化率が「+25%」という数値をイメージしにくい場合、直径10mmの球状のゴム片に置き換えると分かりやすくなります。元の体積を523mm³とした場合、+25%膨潤すると約654mm³になります。直径に換算すると約10.77mm、つまり直径が0.77mm大きくなる計算です。Oリングの溝に収まっているシール材がこれだけ膨らめば、シール性能の変化や取り外し困難などの実務上の問題が発生しうることは容易に想像できます。


判定基準の確認作業は、設計段階と調達段階の両方で行うのが原則です。特に海外サプライヤーから部品を調達する場合、ISO 1817(JIS K 6258に対応する国際規格)準拠の試験成績書が提出されることがありますが、試験油がIRM系ではなくASTM系の旧番号(No.1・No.2・No.3油)で記載されていることがあります。旧番号とIRM番号は対応しているので、換算表で確認しましょう。


耐油性試験JISと金属加工現場のシール材・Oリング選定への実践的な活用法

耐油性試験の結果を現場の部品選定に活かすには、材質ごとの耐油性の特徴を把握しておくことが近道です。金属加工現場で使用頻度が高いゴム材質として、NBR(ニトリルゴム)・FKM(フッ素ゴム)・EPDM(エチレンプロピレンゴム)・CR(クロロプレンゴム)が挙げられます。


それぞれの耐油性の傾向は以下の通りです。





































材質 鉱物油系への耐性 芳香族系への耐性 水溶性切削油への耐性 耐熱温度(目安)
NBR(ニトリルゴム) ◎ 優秀 △ やや弱い 〇 良好 〜120℃
FKM(フッ素ゴム) ◎ 優秀 〇 良好 〜200℃
EPDM(エチレンプロピレン) ✕ 不可 ◎ 優秀 〜150℃
CR(クロロプレン) 〇 良好 △ やや弱い 〇 良好 〜100℃


注意が必要なのはEPDMです。耐候性・耐水性・耐蒸気性には非常に優れていますが、鉱物油・切削油(油性)・グリースへの耐性はほぼゼロと言って差し支えありません。これは見落とすと大きなトラブルにつながります。EPDM製のパッキンを水系洗浄剤の配管から油冷却ラインに流用した結果、わずか数週間でシールが膨潤・破断し、油漏れを引き起こした