G76は「2行で指令しないと正常に動作しない」サイクルです。
NC旋盤でねじを加工するとき、1回のパスだけで完成させることはできません。ねじ山の深さまで数回に分けて少しずつ切り込んでいく必要があり、そのたびに工具の送りと主軸の回転を完全に同期させなければなりません。同期が少しでもずれると、ねじ山が二重になったり刃物が欠けたりと、加工が台無しになります。
G76はこの複雑な一連の動作を「複合固定サイクル」としてまとめたGコードです。切込み位置の計算、各パスの切込み量の自動調整、ねじ加工、逃げ、戻りという一連の流れをたった2行のプログラムで実現します。
ねじ切りサイクルにはG32・G92・G76の3種類があります。G32は1パスずつ手動で切込み量を指定する原始的な方法です。G92は切込みごとに1行指令するシンプルなサイクルですが、パスごとに谷径を変えて入力し直す必要があります。G76は切込み量の自動計算まで含め、2行だけで全パスを完結させる最も効率的なコードです。
特筆すべきはG76の切込み方式です。「フランクインフィード(片刃切込み)」と呼ばれ、ねじ山の片側の斜面に沿って斜めに切り込んでいきます。切削面積を常に均一に保てるため、切削抵抗が安定しビビリが発生しにくいのが大きな特長です。つまりG76は精度と効率を両立したサイクルということです。
NC旋盤のポジションコーダー(主軸位置センサー)の信号を使って送りと回転を同期させ、加工のたびに同じ位相からねじ切りをスタートします。この仕組みにより、何パス重ねてもねじ山がずれずに正確に切り込まれます。
参考:ねじ切り加工の種類・インフィード方式・プログラム例について詳しく解説されています(中村留精密工業の技術コラム)
G76の指令は必ず2行1セットです。1行目を書いただけでは動作しません。これが基本です。
FANUC系のCNCコントローラ(16T・18T・21T・0i)で標準的に使われる2ブロック形式の指令方法は以下の通りです。
| 行 | 指令例 | 役割 |
|---|---|---|
| 1行目 | G76 P010060 Q100 R0.05 | 全体の動作パラメータを設定 |
| 2行目 | G76 X30.0 Z-25.0 R0 P1024 Q200 F2.0 | ねじ形状の寸法を指定 |
1行目のパラメータ
Pは6桁の数値で3グループに分かれています。最初の2桁(01)が最終仕上げの繰り返し回数(1〜99回)、次の2桁(00)がねじの切り上げ量(ピッチの倍数で00〜99、10が1倍)、最後の2桁(60)がねじ山の角度です。ねじ山角度は0°・29°・30°・55°・60°・80°の6種類から選びます。メートルねじやユニファイねじは60°が標準です。
Qは最小切込み量(単位:0.001mm)です。切込みが進むにつれ自動計算される切込み量がこの値を下回らないよう制御します。たとえばQ100と入力すると最小切込み量は0.1mmです。
Rは仕上げ代です。最終パス前に残しておく量で、小数点で入力します(例:R0.05は0.05mm)。これが条件です。
2行目のパラメータ
Xはねじの谷径(絶対値)です。外径ねじなら仕上がりの谷径を直径値で指定します。Zはねじの終点座標(絶対値)です。
Rはテーパーねじのときに使う勾配値(半径値)です。ストレートねじの場合はR0またはRを省略します。テーパーねじにするにはここに半径差を入力するだけで切替えられます。
Pはねじ山高さ(半径値・小数点なし)です。メートルねじM10×P1.5の場合、ねじ山高さは約0.974mm(半径値)となり、P974と入力します。Qは第1回目の切込み量(半径値・小数点なし)です。Q200は0.2mmの切込みを意味します。Fはピッチ(リード)です。M10×P1.5ならF1.5と指定します。これが原則です。
📋 主要パラメータ一覧
| パラメータ | 内容 | 入力例 |
|---|---|---|
| P(1行目) | 仕上げ回数・切り上げ量・ねじ山角度(6桁) | P010060 |
| Q(1行目) | 最小切込み量(0.001mm単位) | Q100(=0.1mm) |
| R(1行目) | 仕上げ代(小数点あり) | R0.05 |
| X(2行目) | ねじ谷径(絶対値・直径値) | X28.37 |
| Z(2行目) | ねじ終点(絶対値) | Z-30.0 |
| R(2行目) | テーパー量(半径値)ストレートはR0 | R0 または R-14.5 |
| P(2行目) | ねじ山高さ(半径値・小数点なし) | P974 |
| Q(2行目) | 第1回目切込み量(半径値・小数点なし) | Q200(=0.2mm) |
| F(2行目) | ピッチ(リード) | F1.5 |
参考:FANUCコントローラのGコード詳細と指令書式が確認できます
NC旋盤のプログラミング基礎講座!⑨〜Gコード後編(G71〜G76) – 職人転職
G76とG92はどちらもNC旋盤のねじ切りサイクルですが、切込み方式・操作の複雑さ・適した用途が明確に異なります。意外ですね。
G92(ラジアルインフィード)は「ねじの谷の中央に対して垂直に切り込む」方式です。プログラムはシンプルで覚えやすく、NC旋盤を使い始めた段階で最初に学ぶサイクルです。ただし谷が深くなるほど工具の接触面積が増え、切削抵抗が急激に大きくなります。ピッチが大きいねじ(例:ピッチ3mm以上のねじ山高さが約1.8mm超)ではビビリが発生しやすく、ねじ面が荒れる原因になります。
G76(フランクインフィード)は「ねじ山の片側の斜面に沿って斜めに切り込む」方式です。片刃切削のため切削抵抗が低く、切粉の排出方向が一定になるという利点があります。加工するピッチが大きいほどその差は顕著で、ピッチ2mm以上のねじやステンレスのような難削材には特にG76が有利です。これは使えそうです。
🔍 G92とG76の比較表
| 項目 | G92(ラジアルインフィード) | G76(フランクインフィード) |
|---|---|---|
| 切込み方式 | 谷に対して垂直(両刃切削) | 斜面に沿って斜め(片刃切削) |
| プログラムの複雑さ | 1行ずつ切込み量を変えて指令 | 2行のみで全パス自動計算 |
| 切削抵抗 | 切込みが深いほど大きくなる | 均一に保たれる |
| ビビリの発生 | 大ピッチで発生しやすい | 大ピッチでも発生しにくい |
| 適したピッチ | 小ピッチ(概ねP2mm以下) | 全ピッチ(特に大ピッチに有効) |
| 難削材への対応 | やや不向き | 向いている |
G92はシンプルさが武器で、小ピッチかつ軟らかい材料の加工では十分な性能を発揮します。G76は自動計算とフランクインフィードの組み合わせで、プログラムの効率と加工品質の両方を高いレベルで両立させるサイクルです。
現場の選択基準としては、ピッチが2mm以上・材料がステンレスや硬質素材・ビビリが問題になっている場合はG76を選ぶのが基本です。一方でピッチが小さく、切込み量を細かく手動で調整したい場面ではG92の方が直感的に扱いやすいこともあります。加工状況に応じた使い分けが重要です。
参考:ラジアルインフィードとフランクインフィードの違いと切粉処理の詳細が解説されています
ねじ切り加工で切りくずが伸び絡む時の対策 – Tungaloy
G76を使ってテーパーねじを切るのは、実はそれほど難しくありません。2行目のRパラメータを追加するだけです。
ストレートねじのプログラムが以下だとします。
N5 G76 P010060 Q100 R0.05
N6 G76 X30.0 Z-20.0 R0 P1024 Q200 F2.0
テーパーねじに変更する場合、2行目のRに「ねじの開始端と終了端の直径差の半分(半径値)」を入力します。
Rパラメータの計算式:
R =(開始直径 – 終了直径)÷ 2
例えば、ねじの開始端が直径50mm・終了端が直径43mmのテーパーねじを加工する場合は次のようになります。
R =(43 – 50)÷ 2 = −3.5
この値を2行目のRに入れると以下のプログラムになります。
N5 G00 X55.0 Z5.0
N6 G76 P010060 Q100 R0.05
N7 G76 X43.0 Z-45.0 R-3.5 P1024 Q200 F2.0
ここで注意が必要なのはRの符号(プラス・マイナス)です。ねじ径が工具の移動方向に対して小さくなる場合(外径ねじでZ方向に進むにつれて細くなる場合)はマイナスになります。符号を間違えるとテーパーの方向が逆になるため、必ず加工前にドライランで確認する習慣をつけてください。半径値での入力が条件です。
もう一点、テーパーねじではねじ始点(サイクルのスタート位置)をワーク外形よりも十分に離した位置に設定することが重要です。テーパー角がある分、工具がワークに当たる前にねじ切りが始まる必要があります。スタート位置の設定が甘いとプログラムが想定通りに動かないことがあります。
管用テーパーねじ(Rc・R規格)のように角度が決まっているねじを加工する場合は、テーパー量が規格で決まっているためその数値をそのまま使えます。例えば管用テーパーねじのテーパーは1/16(約3.58°)です。
参考:FANUCのG76を使ったテーパーねじのプログラム例とR計算方法が解説されています
Fanuc G76 ねじ切りサイクルによるテーパーねじ切り – MFGRobots
G76のパラメータ構造を理解していても、現場での実運用ではミスが起きやすいポイントがいくつかあります。厳しいところですね。
①回転数は必ずG97(定回転)で固定する
G76でのねじ切り中に回転数が変化すると、ねじ山がずれて二重ねじになります。G96(周速一定制御)のままG76を実行すると、加工が進むにつれて径が変化するため回転数が自動で変わり、ねじ山の位相がパスごとにずれていきます。ねじ切りサイクルの前には必ずG97で定回転を指令し、回転数を固定してください。G97が前提です。
②不完全ねじ部を見越した終点Zの設定
ねじ切りの終端(逃げ溝がない場合)にはどうしても「不完全ねじ部」が発生します。目安としてピッチ1〜2個分(例:ピッチ2mmなら4mm程度)は余分にねじを切る必要があります。ねじの有効長さを確保するためには、終点ZをピッチのN倍だけ余分に延ばすプログラムが必要です。逃げ溝がある場合はそこに工具を引き込ませる設定を加えます。
③2行目のGコードは省略できない
G76は2行で1セットのサイクルです。1行目だけを書いて終わりにすると、コントローラがエラーを返すか、意図しない動作をします。2行目のG76を書き忘れるミスは意外に起きやすいので注意してください。
④Pパラメータの6桁入力を正確に
1行目のP(例:P010060)は6桁をひとつの数値として認識されます。「仕上げ回数1回・切り上げ量0・ねじ山角度60°」を意味するにはP010060と書きます。P160はP016000と解釈される機種もあり、コントローラの仕様を確認することが大切です。数字の桁数ミスが誤動作の原因になります。
⑤切込み量の設定バランスに注意する
1回目の切込み量Q(2行目)を大きくしすぎると工具が過負荷になり、逆に小さすぎると仕上げ代Rの分だけ切り残しが多くなりパス数が増えます。一般的な目安として第1回目の切込み量は0.2〜0.4mm(半径値)程度、最小切込みQは0.05〜0.1mm程度が現場では多く使われます。これが条件です。
⚠️ よくあるトラブルと対処法
| トラブル症状 | 主な原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| ねじ山が二重になる | G96のまま回転数が変化した | G97で定回転に切替え |
| ねじが規定深さまで切れない | 仕上げ代R・最小切込みQの設定ミス | パラメータを見直し再計算 |
| アラームが発生する | 2行目を書き忘れ、またはPの桁数ミス | プログラムの2行構造を確認 |
| ビビリが出る | 切込み量が多すぎ・回転数が高すぎ | Q(初回切込み)を小さくし回転数を落とす |
| 不完全ねじ部が長すぎる | 切り上げ量(Pの中の2桁目)の設定不足 | 切り上げ量をピッチに合わせ再設定 |
参考:CNCねじ切り加工における一般的なトラブルとその原因・対策について詳しく解説されています
旋盤でよくあるCNCねじ切り問題のトラブルシューティング – Artizono
最もよく加工されるメートルねじのひとつ、M10×P1.5を例にG76の実際のプログラムを組み立ててみます。これは使えそうです。
加工条件の整理
プログラム例
O0001(M10×P1.5 外径ねじ加工)
G50 S2000
G00 T0101
G97 S800 M03 ← G97で定回転800rpm固定(G96禁止)
G00 X15.0 Z5.0 M08 ← ねじ切りサイクル開始点へ移動
G76 P010060 Q050 R0.05 ← 1行目:仕上げ1回・切り上げ0・60°・最小切込み0.05mm・仕上げ代0.05mm
G76 X8.376 Z-22.0 R0 P812 Q200 F1.5 ← 2行目:ストレートねじ・ねじ山高さ・初回切込み0.2mm・ピッチ1.5mm
G00 X150.0 Z100.0 M09
M05
M30
ここでのポイントをいくつか整理します。
Zの終点を−22.0に設定している点に注目してください。ねじの有効長さ20mmに対して、ピッチ1.5mm×1.5個分(約2mm)を追加した値です。不完全ねじ部を考慮した設定になっています。
G97 S800とG76の間に早送りG00でスタート位置に移動していますが、このとき「ワーク端面より外側の位置(Z5.0)」に設定しています。ねじ切り開始前に工具が加工済みの面に接触しないための設定です。加工開始前の位置決めが条件です。
仕上げ代R0.05とは、最終仕上げパスの前に0.05mm残しておくことを意味します。切削抵抗の落ち着いた状態で最終切込みを行うため、ねじ面の粗さが改善します。仕上げ精度を上げたい場合はR値を0.02〜0.05mm程度に設定するのが効果的です。
内径ねじの場合も基本的な指令構造は変わりませんが、X値が内径ねじ下径(呼び径から約1.08×ピッチを引いた値)になり、加工方向(XのプラスマイナスとZの方向)が外径ねじと逆になる点に注意が必要です。内径ねじは加工箇所が見えないため、外径ねじよりもドライランでの確認が特に重要です。
現場で使いやすいCNCプログラミングの参考として、複合固定サイクル全体の動作を把握しておくと応用力が高まります。G71・G73などの他の複合サイクルとG76を組み合わせることで、外形加工からねじ切りまでを1つのプログラムで効率よく流せるようになります。CAMソフトを使う環境であれば、FusionなどのツールでもG76サイクルの出力設定を活用できます。
参考:Fusion 360でのG76サイクルの取得方法と「切込みモード:一定切込み」の設定について解説されています