グリットブラストで仕上げた面に塗装しても、下地処理の条件次第では塗膜が3年以内に剥離することがあります。
グリットブラストとは、鋼製や鋳鉄製の角張った研削材(グリット)をコンプレッサーまたはインペラー(遠心式羽根車)によって金属表面へ高速で衝突させ、錆・黒皮(スケール)・旧塗膜などを除去しながら表面に微細な凹凸(アンカーパターン)を形成するブラスト処理の一手法です。
「ブラスト処理」という言葉は研削材を噴射して表面を加工する技術の総称であり、その中でグリットブラストは研削材の形状に着目した分類に当たります。使用する研削材が「グリット(grit)」と呼ばれる多角形・破砕形状であることが、この処理の名前の由来です。
金属表面にグリットが衝突するとき、球形の研削材と異なり鋭いエッジが素材に食い込みます。これにより表面は切削・引っかき作用を受け、研削痕が深く鋭い形状になります。つまり、グリットブラストは単なる清掃処理ではなく、表面形状そのものを積極的に変える加工です。
この凹凸の深さを「表面粗さ」として数値化し、現場ではRz(最大高さ粗さ)で管理するのが一般的です。後工程の塗装・溶射・接着などの密着性は、このRz値に大きく依存します。数字だけで管理できる点が現場での扱いやすさにつながっています。
金属加工の現場では「グリットブラスト」と「ショットブラスト」が混同されることが多く見られます。しかし、この二つは研削材の形状がまるで異なり、仕上がりの表面性状も用途も明確に違います。
ショットブラストで使用する「ショット」は球形の研削材です。衝突時のエネルギーが素材表面に均等に広がるため、表面に圧縮残留応力を与えるショットピーニングにも活用されます。一方、グリットブラストの「グリット」は破砕・多角形状で、衝突時に鋭いエッジが素材を削り取るように作用します。これが基本です。
表面粗さの観点で比較すると、ショットブラストで得られるアンカーパターンはなだらかで浅い形状になりやすく、グリットブラストでは鋭く深い谷形状が形成されます。塗装下地においては深いアンカーパターンが塗膜との機械的な投錨効果(アンカー効果)を高めるため、重防食塗装や溶射前処理にはグリットブラストが選ばれる理由がここにあります。
実際の使い分けをまとめると以下のとおりです。
| 項目 | グリットブラスト | ショットブラスト |
|---|---|---|
| 研削材形状 | 多角形・破砕形 | 球形 |
| 表面作用 | 切削・引っかき | 打撃・圧縮 |
| アンカーパターン | 深く鋭い | 浅くなだらか |
| 主な用途 | 重防食塗装・溶射下地 | スケール除去・ピーニング |
| 表面粗さRz目安 | 50〜100μm程度 | 20〜50μm程度 |
同じブラスト設備を使っていても、研削材をグリットに変えるだけで仕上がりが大きく変わります。これは使えそうです。設備の有効活用という観点でも、研削材の選定は重要な管理ポイントです。
グリットブラストに使用する研削材には複数の種類があり、それぞれ材質・硬度・比重・耐久性が異なります。研削材の選定を誤ると、期待する表面粗さが得られなかったり、素材に不要なダメージを与えたりするリスクがあります。
スチールグリット(鋼製グリット)は最も広く普及している研削材です。硬度はHRC40〜65程度の範囲で製造され、硬度が高いほど切削力が強く深いアンカーパターンを形成します。耐久性も高く繰り返し使用できるため、コスト面でも優れています。
鋳鉄グリットはスチールグリットより脆く、衝突時に細かく砕けやすい特性があります。素材への負荷が比較的低く、薄板への処理に使われる場面もありますが、消耗が早いためランニングコストは上がります。
アルミナ(酸化アルミニウム)グリットは鉄汚染を嫌うステンレスや非鉄金属の処理に使われます。硬度が非常に高く(モース硬度9)、鉄系では考えられないほど鋭い切削面が得られます。
粒度(メッシュ番号やG番号)は粒の大きさを表します。粒度が小さい(番号が大きい)ほど細かい研削材で、仕上がりの粗さは細かくなります。逆に粒度が大きい(番号が小さい)ほど粗い仕上がりです。一般的な重防食塗装の下地処理では、G25〜G40相当(粒径0.6〜1.2mm程度)が用いられることが多いです。
粒度の選定は後工程の要求Rz値から逆算するのが原則です。塗装メーカーの仕様書に記載されているRzや錆落とし度(ISO 8501-1のSa2.5など)を確認し、それを達成できる粒度を選びます。
グリットブラスト後の品質を左右する最大の管理項目は「表面粗さ(Rz)」と「錆落とし度(清浄度)」の二つです。どちらか一方だけでは、塗装工程での不具合リスクを排除できません。
表面粗さRzは、処理面の凹凸の高さを数値化したものです。重防食塗装の多くの仕様書では「Rz 40〜70μm」が要求されています。Rzが低すぎると塗膜のアンカー効果が不足して剥離につながり、逆に高すぎると塗膜厚が凹部で薄くなる「ピーク被覆不足」が発生します。どちらも塗膜寿命を縮める原因です。
表面粗さの測定には、触針式粗さ計またはレプリカテープ(Testex社のPress-O-Film®など)が現場で広く使われています。レプリカテープは専用マイクロメーターで厚みを読むだけで現場でのRz測定が可能なため、使い勝手がよいです。
錆落とし度の評価はISO 8501-1(旧JIS Z 0313)の規格に基づきます。グリットブラスト後に要求されることが多いのは「Sa2.5(非常に清浄なブラスト処理面)」または「Sa3(完全なブラスト処理面)」です。Sa2.5では、表面に残存する錆・スケール・旧塗膜が1%未満であることが目視で確認できる状態を指します。
| 錆落とし度 | 状態の定義(ISO 8501-1) | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| Sa1 | 軽いブラスト処理。目に見える油脂・汚れを除去 | 軽防食 |
| Sa2 | 十分なブラスト処理。スケールの大部分を除去 | 一般防食 |
| Sa2.5 | 非常に清浄。残存汚染物が面積の1%未満 | 重防食・海洋構造物 |
| Sa3 | 完全清浄。金属光沢面 | 溶射・特殊塗装 |
測定と記録は必ずセットです。口頭確認だけでは後工程でのトラブル発生時に根拠が残りません。
グリットブラスト後の表面は活性状態にあり、大気中の水分と反応して非常に速く錆が発生します。この薄い初期錆を「閃錆(せんさび)」と呼び、現場で見落とされがちな品質リスクです。
閃錆の発生速度は温度・湿度・素材の成分に依存しますが、夏場の屋外や湿度80%以上の環境では、ブラスト処理後わずか1〜2時間で閃錆が確認されるケースがあります。これは痛いですね。塗装・溶射を行う前に閃錆が発生した場合、密着性が著しく低下します。
現場でよく行われる対策は以下の三つです。
特に鋼橋や石油タンクなどの大型構造物では、ブラスト班と塗装班の連携が閃錆対策の核心になります。工程の前半でブラストした部位が後半の塗装班に渡るまでの経過時間を、作業開始前に計算しておくことが現場での基本です。
閃錆が発生してしまった場合、軽微な閃錆(ISO 8501-1のRust Grade A相当の初期段階)であれば上塗り塗料の仕様によって容認されることもありますが、原則として再ブラストが必要になります。これはコストと時間に直結するリスクです。再作業を防ぐための時間管理が条件です。
参考として、塗装管理や防食設計に関する規格・指針を確認する際には日本鋼構造協会(JSSC)や土木学会の防食設計ガイドラインが詳しいです。
日本鋼構造協会(JSSC)公式サイト:鋼構造物の防食・塗装基準に関する規格・技術資料を参照できます
現場で長年見落とされてきた問題があります。それは「使い回しているグリットの粒度が徐々に変化し、知らないうちに品質管理の前提が崩れていく」という現象です。
グリットブラスト装置(特に遠心式のホイールブラスト機)では、研削材は繰り返し循環使用されます。使用回数が増えるにつれてグリットのエッジが摩耗・破砕され、当初の粒度分布が変化します。G25で管理を始めた装置でも、研削材の補充・交換を怠ると数百サイクルを経た後の実効粒度はG40相当以下になっていることがあります。
これが問題なのは、同じ設定・同じ時間でブラスト処理しても、得られるRzが徐々に低下していくからです。作業者が気づかないまま基準Rz未達の製品が後工程に流れ、数年後の塗膜剥離や防食不良につながります。
対策として有効なのは、以下の定期管理です。
ISO 11124-3(鋼製研削材の要求事項)では研削材の粒度・硬度・化学組成に関する要件が規定されています。この規格を参考に研削材管理の手順書を整備することで、品質の一貫性が大幅に向上します。
研削材の状態管理を怠ると、表面粗さ不足による塗膜剥離クレームが発生した際に「どの工程に原因があるか」の追跡が困難になります。記録と管理がセットで機能するということですね。
日本産業標準調査会(JISC):ISO 11124シリーズ対応のJIS規格や研削材関連規格の確認ができます