段取り替えに2時間かかっているのに、その間も人件費は同じだけ発生し続けています。
FMS(Flexible Manufacturing System)とは、1つの生産ラインで異なる種類・仕様の製品を柔軟に製造できる生産方式のことです。日本語では「フレキシブル生産システム」または「柔軟生産システム」と呼ばれ、金属加工業をはじめとする製造現場で急速に普及が進んでいます。
具体的には、CNC工作機械(マシニングセンタやNC旋盤など)、産業用ロボット、AGV(無人搬送車)、そして全体を統括するコンピュータ制御システム(FMSコントローラー)を組み合わせた構成になります。これらが互いにデータを共有しながら、加工・組立・検査・搬送のすべての工程を一元管理します。つまり、FMSとは「機械同士がつながった、ひとりでに動く工場」だということですね。
従来の金属加工ラインは、製品Aには専用のライン、製品Bには別の専用ラインというように、品種ごとに設備を分けるのが当たり前でした。この方式は大量生産には向いていますが、需要が変動したり品種が増えたりすると、使われていない設備が増えてコストだけがかさむという問題が生じます。FMSはこの弱点を克服するために生まれたシステムです。
製造したい製品A・B・Cの情報をシステムにあらかじめ登録しておくと、ライン上に流れてくるワーク(加工対象物)に応じて、工具やプログラムが自動で切り替わります。作業者が「次はBだから段取り替えしよう」と手を動かす必要はありません。これが実現できる理由は、各設備がリアルタイムでデータをやり取りしており、製品情報を「自分で読み取って判断する」仕組みになっているからです。
FMSの主な構成要素をまとめると次のようになります。
| 構成要素 | 役割 | 金属加工での主な機器例 |
|---|---|---|
| 加工機械 | 材料の切削・成形を自動で実行 | マシニングセンタ、CNC旋盤、NC専用機 |
| 搬送システム | ワークを各工程間で自動移動 | AGV(無人搬送車)、パレット搬送装置、コンベア |
| 産業用ロボット | ワークの着脱・組立・検査補助 | 多関節ロボット、協働ロボット |
| 中央制御システム | 全設備の統合管理・スケジューリング | FMSコントローラー、MES(製造実行システム) |
参考:FMSの定義と構成について詳しく解説したITmedia MONOistの記事は、製造業DXとの関連でも理解を深められます。
FMS(フレキシブル生産システム)とは?導入事例やメリット|工場のデジタル化・DXを推進するメディア
なぜ今、FMSがこれほど注目されているのでしょうか。その答えは、金属加工業を取り巻く市場環境の変化にあります。
一言で言えば、「少品種大量生産の時代が終わった」からです。自動車・建設機械・産業用機器などの主要顧客は、製品ライフサイクルの短縮化やカスタマイズ要求の高まりにより、発注ロットを小さくしながら品種を増やす「変種変量生産」を発注側にも求めるようになりました。国内の金属加工業者が日常的に扱う品種数は、20〜30年前と比べて大幅に増加しているという現場の声は珍しくありません。
一方で、人手不足は深刻さを増しています。2025年時点において製造業の有効求人倍率は高止まりが続いており、ベテラン技術者の高齢化・退職問題もあいまって、「人を増やして品種増加に対応する」という従来の方法はもはや限界を迎えています。経験とカンに依存した職人型の作業工程は、後継者が育たなければそのまま技術が消えてしまうリスクをはらんでいます。
さらに、「段取り替えロス」の問題があります。金属加工現場では、製品が切り替わるたびに治具交換・プログラム変更・試加工という手順が必要で、このロス時間が1回あたり1〜3時間に及ぶこともあります。品種数が多い現場では、1日のうち機械が実際に加工している時間よりも段取り替えしている時間の方が長い、というケースも報告されています。これは当然、稼働率の低下と製造コストの上昇につながります。
こうした複合的な課題を解決する有力な手段として、FMSが改めてスポットライトを浴びているわけです。「設備を増やす」のではなく「今ある設備をフルに使い切る」という発想の転換が、FMS導入の本質です。
FMSを導入した場合、金属加工の現場には複数の具体的なメリットがもたらされます。数字を交えながら見ていきましょう。
夜間・休日の無人稼働による実質稼働時間の大幅拡大
人が関与しなくても機械が動き続けられるFMSの最大の強みは、24時間・365日稼働が理論上可能になる点です。従来の有人ライン(1日8時間×250日稼働)と比べると、夜間・休日も含めた連続稼働では年間の実質稼働時間を2〜3倍に引き上げられる計算になります。
実際に、金属加工メーカーの株式会社竹中(栃木県佐野市)は横型マシニングセンタ3台とパレット搬送システムを組み合わせたFMSを活用し、加工時間が長い部品を夜間無人運転で生産する体制を構築しています。同社は「慢性的な人材不足への対応と、製品の安定供給体制の強化」がFMS導入の主な目的だと述べており、人が帰宅した後も機械が稼ぎ続ける体制が整っています。これは使えそうです。
段取り替え時間の削減と工程集約
FMSの代表的な成果として、段取り替え時間の大幅短縮が挙げられます。先述の通り、品種切り替えのたびに1〜3時間のロスが生じていた現場が、FMS導入後はシステムが自動でプログラムと工具を切り替えるため、段取り停止をほぼゼロに近づけられた事例があります。
さらに極端な例では、あるFMS導入企業(自動車メーカー)が45工程あった加工を4工程に集約することに成功したという報告もあります。これは工程数を10分の1以下に圧縮したことを意味し、リードタイムと設備投資の大幅削減につながっています。
属人化排除による品質安定と教育コスト削減
人間が加工を行う限り、どうしても個人差が品質に反映されます。熟練工と新人では仕上がり精度に差が出るのは避けられません。FMSにロボットのティーチング(プログラミング)を組み合わせると、熟練工のカン・コツをデータとして固定し、同じ精度の加工を何千回でも繰り返すことが可能になります。
「この人でなければできない加工」がなくなることは、採用・育成コストの削減にも直結します。一般的に製造業における新人の教育期間は半年〜2年とされており、この間のコストは目に見えにくいながらも相当な負担です。FMS導入によってその工程がロボット化されれば、教育コストの問題は根本から解消されます。
安全性の向上
金属加工では、重量物の取り扱いや切削粉・油への長時間暴露など、作業環境上のリスクが少なくありません。FMSによって危険作業をロボットに置き換えることで、労働災害のリスクを大幅に引き下げられます。過去の導入事例では、最大117kgの板金を扱う作業をロボット化し、ヒューマンエラー由来の事故をゼロにした実績も報告されています。安全が条件です。
FMSには大きなメリットがある一方で、見過ごせないデメリットも存在します。導入を検討する際には、事前にしっかり把握しておくことが重要です。
初期投資コストが高い
FMSの最大の障壁は、初期投資の大きさです。CNC工作機械やマシニングセンタなどは1台あたり数百万〜数千万円規模になることがあり、これにロボット本体・搬送装置・制御システム・設置工事費・ロボットSIerへの報酬などを合算すると、トータルコストはさらに膨らみます。メリットの段で説明した通り、省人化や稼働時間の拡大による収益改善効果は確かに大きいのですが、その回収に何年かかるかをシビアに試算することが不可欠です。
補助金の活用も有効な選択肢です。経済産業省はFA化(ファクトリーオートメーション)推進のための補助金や税制優遇を継続的に用意しており、中小企業でも申請できるものがあります。ただし申請要件や締切は年度によって変わるため、導入計画と並行して最新情報を確認する必要があります。
ロボット選定とティーチングの専門性
産業用ロボットはただ設置すればいいわけではなく、各工程に最適な機種を選んだうえで、μm(マイクロメートル)単位での精度を出せるようティーチングを行わなければなりません。ティーチングには専門的な技術資格が必要な場合もあり、社内に対応できる人材がいない場合は外部の「ロボットSIer(システムインテグレーター)」への依頼が現実的です。
この点が「FMSは大企業のもの」という先入観を生む原因にもなっていますが、実際にはロボットSIerを活用した中小金属加工メーカーの導入事例も増えています。導入の際は、まず自社の加工工程のうちどこが最もボトルネックになっているかを明確にしてから、SIerに相談するのが近道です。
生産計画の複雑化
FMS導入後は、複数品種の加工を同一ラインで管理することになるため、工具の摩耗管理・各品種のサイクルタイム調整・受注変動への対応など、生産計画の精度が求められるレベルが上がります。手作業のエクセル管理では対応しきれなくなるケースも多く、MES(製造実行システム)やERP(統合業務システム)との連携を検討する必要が出てくることもあります。つまり、FMSはシステムとデータ管理の両輪で機能するということですね。
実際の金属加工現場でFMSがどのように機能しているか、具体的な事例を見ていきましょう。
株式会社竹中(栃木県佐野市)の事例
1938年創業の金属加工専業メーカーである株式会社竹中は、2021年に竣工した藤岡工場にFMSを導入し、横型マシニングセンタ3台とパレット搬送システムを組み合わせた加工体制を構築しました。対応サイズはφ1,000×高さ1,300mmという中大サイズの鋳鉄・鍛造部品で、重切削と高速仕上げ加工の両方に対応しています。
この体制の最大の特徴は、「夜間を含む無人運転」による長時間連続稼働の実現です。加工時間が長い部品を昼間のうちにセットしておくと、夜間は人がいなくても機械がそのまま稼働し続けます。翌朝出勤したときには加工が完了しているという運用で、1日の実質稼働時間を大幅に引き上げることに成功しています。これが基本です。
なお同社は現在、FMSで対応する長時間加工案件と、短納期・多品種小ロットの案件を汎用マシニングセンタおよびNC旋盤群で対応するという「役割分担」の体制を構築しています。すべてをFMSに集約するのではなく、設備の特性を最大限に活かす柔軟な運用が実際の現場では重要です。
参考:金属加工メーカー竹中によるFMS活用体制の詳細はこちら。
金属加工のパイオニア・竹中が"FMS活用体制"を本格運用へ|PR TIMES
板金加工・変種変量生産への適用事例(中小製造業)
従業員450名の金属製品製造業(中小企業)では、レーザ加工機の板金バラシ・仕分け工程にFMSを導入した事例があります。この工程では最大117kgの板金を扱う危険な作業が行われており、完全受注生産による変種変量に対応するためのロボット化が求められていました。
導入した結果は以下のとおりです。
| 指標 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 作業時間 | 8時間 | 2時間(75%削減) |
| 必要人員 | 3人 | 1人 |
| 生産量 | 160枚 | 230個(1.4倍) |
| 労働生産性 | 基準 | 1.4倍向上 |
特筆すべきは、生産量が増加しながら人員は3分の1以下になった点です。この成果は一時的な改善ではなく、ロボットが動き続ける限り恒久的に維持されます。人のがんばりではなく、仕組みとして固定された改善という点がFMSの本質的な価値です。
マツダの「フレキシブルライン構想」
大企業の事例として、自動車メーカーのマツダは「フレキシブルライン構想」によりFMSを全社的に推進しています。汎用設備のみで生産ラインを構成し、治具を極小化することで「製品が進化しても設備を大幅に変えずに対応できる体制」を作り上げました。
もっとも象徴的なのは、フレキシブルライン導入によって45工程あった製品の加工を4工程に集約した実績です。工程数が約11分の1になることで、製造リードタイムの短縮と設備投資の圧縮が同時に実現されています。意外ですね。
参考:マツダのコモンアーキテクチャとFMSの取り組みについては以下が詳しいです。
FMS(フレキシブル生産システム)とは?導入事例やメリット | KOTO ONLINE
FMSと混同されやすい生産方式として、FTL(フレキシブル・トランスファー・ライン)とセル生産方式があります。それぞれの違いを理解することで、自社の現場にどの方式が合うかを判断しやすくなります。
FMSとFTLの違い
FTL(Flexible Transfer Line)は、加工順序が固定されたラインを多品種に対応させた方式で、FMSよりも設備配置の自由度は低いですが、大量生産ラインとの親和性が高いという特徴があります。FMSは加工順序を含めて柔軟に変更できる点が最大の違いです。製品ごとに最適な加工経路を選べるのがFMSの強みです。
FMSとセル生産方式の違い
セル生産方式は、1人または少数の作業者が部品の投入から完成品の取り出しまでをU字型などの小さな「セル」内でこなす方式です。個人のスキルに依存する部分が大きく、習熟に時間がかかりますが、非常に少ないロット(1個〜数個)への対応が得意です。一方、FMSは自動化によって作業者スキルへの依存度を下げながら、中ロット以上の変種変量生産に対応するための方式です。
| 方式 | 自動化レベル | 向いている生産量 | 品種対応の柔軟性 | 主な金属加工での用途 |
|---|---|---|---|---|
| FMS | 高い | 中ロット~大ロット | 高い | マシニングセンタ群の統合管理、夜間無人加工 |
| FTL | 高い | 大ロット中心 | 中程度 | 自動車部品の量産ライン |
| セル生産 | 低〜中 | 小ロット〜中ロット | 非常に高い | 試作品・特注品の加工 |
金属加工の現場では「どの方式が優れているか」という議論よりも、「どの工程にどの方式を組み合わせるか」という設計の視点が重要です。竹中の事例で見たように、FMSと汎用ショップを並列で持つハイブリッド体制も、現実的かつ効果的なアプローチです。どちらが正解かではなく、組み合わせが原則です。
参考:FMSとセル生産方式の違いについてはFAプロダクツのコラムが体系的にまとまっています。
【図解】FMSの仕組みとメリット・デメリット、導入方法まで解説!|株式会社FAプロダクツ