複列円筒ころ軸受はアキシアル荷重をほぼ受けられず、誤選定で軸受が数週間で損傷することがあります。
複列円筒ころ軸受は、内輪・外輪の間に円筒状のころを2列に配置した構造を持つ転がり軸受です。ころと軌道面が「線接触」する点は単列と同じですが、ころの列数が2列になることで転がり接触面積が実質2倍となり、ラジアル荷重の負荷能力と軸系全体の剛性が格段に高まります。
単列軸受は「軸受を1個並べた状態」ですが、複列はそれを一体の軸受ユニットに収めたものだとイメージしてください。新川電機株式会社の技術解説によると、「複列軸受は軸受を2個並べているようなもので、単列軸受に比べて負荷能力が大きく、剛性も高くなる」とされています。剛性が高いということですね。
ただし、注意すべきポイントがあります。複列円筒ころ軸受のNN形・NNU形は基本的にアキシアル荷重(軸方向の荷重)をほとんど受けられません。玉軸受や円すいころ軸受と異なり、純粋にラジアル荷重専用に近い設計です。これが「強くなったから何でも対応できる」という誤解を生む最大の落とし穴です。
| 項目 | 単列円筒ころ軸受 | 複列円筒ころ軸受 |
|---|---|---|
| ころの列数 | 1列 | 2列 |
| ラジアル荷重能力 | 標準 | 大(単列の約1.6〜2倍以上) |
| 剛性 | 標準 | 高い |
| アキシアル荷重 | 形式次第で一方向可 | NN・NNU形はほぼ不可 |
| 軸方向幅 | コンパクト | やや大きい |
| 主な用途 | 電動機・ポンプ・汎用産業機械 | 工作機械主軸・圧延ロール・大型減速機 |
参考:円筒ころ軸受の構造・種類・選定のポイントについて詳しく解説されています。
円筒ころ軸受とは?構造・種類と加工精度の重要性をわかりやすく解説|三和ニードル・ベアリング
複列円筒ころ軸受の主要な形式として、現場でよく使われるのが「NN形」と「NNU形」の2種類です。見た目は似ていますが、つばの位置が逆になっているため、用途や取り付け方法が変わります。これは知っておくべき基本です。
NN形(内輪につばあり) は、内輪の両側と中央部につばを持ち、外輪にはつばがない構造です。ころは外輪側に保持される形になります。工作機械のスピンドル(主軸)では、内輪をしまりばめで軸に固定し、外輪をすきまばめでハウジングに取り付けるケースが一般的で、NN形はその取り付け配置に適しています。
NNU形(外輪につばあり) は、外輪の両側と中央部につばを持ち、内輪にはつばがない構造です。ころは内輪側に保持されるイメージです。外輪をしまりばめで固定する設計、または圧延機のロールネックのような特殊な取り付け条件で選ばれることがあります。
つまり「しまりばめをどちらの軌道輪にするか」が選定の基準です。
どちらの形式もテーパ穴仕様(型番末尾に「K」がつくもの)が用意されています。これについては次のセクションで詳しく解説します。
参考:NN形・NNU形の構造と主要寸法規格について、軸受メーカーKoyoの製品情報で確認できます。
円筒ころ軸受 製品情報|ベアリングのKoyo(ジェイテクト)
複列円筒ころ軸受には、内径が円筒穴のものとテーパ穴のものがあります。テーパ穴タイプ(型番末尾に「K」)は、軸への押し込み量を調整することで内部ラジアルすきまを変えられる、非常に実用的な機構を持っています。意外ですね。
通常の円筒穴では、軸とのはめあいにより軸受の内部すきまが変化するため、設計・製造段階であらかじめ計算した値を選定する必要があります。一方、テーパ穴仕様では、アダプタスリーブや引き込みスリーブを使って軸に押し込む際の量を変えることで、組み付け後でもサブミクロンオーダーのすきま調整ができます。
工作機械の主軸では、剛性と回転精度を両立するために「適切な予圧・すきま状態」に設定することが加工精度に直結します。CNC旋盤やマシニングセンタで0.001mm単位の加工精度を求めるなら、この内部すきま管理は無視できない要素です。
テーパ穴の標準テーパ比は1:12(一部用途では1:30)とJIS規格で定められており、互換性も確保されています。押し込み量とすきま変化量の関係は、各軸受メーカーのカタログに数値データとして掲載されているため、現場での調整作業に役立てることができます。テーパ穴タイプを選べば設定の柔軟性が増します。
| 項目 | 円筒穴 | テーパ穴 |
|---|---|---|
| 内部すきま調整 | 固定(設計値で選定) | 押し込み量で調整可能 |
| 取り付け方法 | 直接しまりばめ | スリーブ・ナットで押し込み |
| テーパ比 | — | 1:12(一般)・1:30(特殊) |
| 主な用途 | 標準的な産業機械 | 工作機械主軸・高精度要求用途 |
複列円筒ころ軸受を工作機械主軸で使う場合、「高速性」は重要なテーマです。軸受の回転速度性能は「dmn値」(軸受の転動体軌道中心径 × 回転数)という指標で表されます。値が大きいほど高速運転に対応できます。
従来の銅合金もみ抜き保持器を使ったタイプでは、dmn値に限界がありましたが、NTNが2004年に発表した新シリーズでは、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)樹脂保持器の採用により、エアオイル潤滑時でdmn値175万、グリース潤滑時でもdmn値100万を達成しています。従来品比でエアオイル潤滑時は50%向上という数値です。
ジェイテクトの「ハイアビリーJFAST」では、グリース潤滑時にdmn値150万を達成し、昇温を従来比約40%低減、グリース寿命は約20%向上と報告されています。これは使えそうです。
潤滑方法の選択も重要なポイントです。
回転速度と設備条件に合わせた潤滑方法の選択が、複列円筒ころ軸受の寿命を左右します。グリース潤滑なら適量管理が条件です。
参考:NTNが発表した精密複列円筒ころ軸受のPEEK樹脂保持器採用による高速化の詳細
精密級複列円筒ころ軸受を一新〜世界No.1の高速性を実現〜|NTN株式会社
複列円筒ころ軸受が実際に使われる現場は、工作機械主軸・鉄鋼圧延ロール・大型電動機・減速機・風力発電装置のギアボックスなど、「高い剛性と重いラジアル荷重」が要求されるシーンです。たとえばNYZの事例では、NN3020(内径100mm相当)が約210kNのラジアル荷重に対応すると示されています。これは感覚的に言うと、約21トンの重さを軸方向に直角な方向から支えられる計算になります。東京タワーのエレベーター1台分の重量に近いイメージです。
ここで金属加工の現場で特に重要になるのが「固定側・自由側」の概念です。1本の軸に2個以上の軸受を取り付けると、回転に伴う発熱で軸が熱膨張します。軸とハウジングは素材や放熱量が異なるため、温度差から生じる熱伸びの差が軸に応力を与えます。放置すると軸のたわみや軸受の早期損傷につながります。痛いですね。
複列円筒ころ軸受(NN・NNU形)は分離型構造のため、内輪と外輪の間でころが軸方向に移動できます。これが「自由側軸受」として機能し、熱膨張による軸の伸縮を受け逃がします。一方、固定側にはアキシアル荷重も受けられる別形式の軸受(アンギュラ玉軸受など)を組み合わせるのが工作機械主軸の標準的な設計パターンです。
複列円筒ころ軸受をアキシアル荷重がかかる固定側に使ってしまうと、ころの端面やつばに想定外の負荷がかかり、数週間〜数ヶ月での早期損傷が報告されています。固定側・自由側の使い分けが原則です。
参考:固定側・自由側の概念と、単列・複列軸受の選定方法について基礎から解説されています。
軸受の選定(2)単列・複列・組合せ、固定側と自由側|新川電機株式会社