鉛筆硬さ試験で「6H」の鉛筆を使えば必ず高い硬度評価が得られると思っていませんか?実は、押しつけ荷重が規定の750gからわずか50gズレるだけで、評価結果が1〜2ランク変わって製品クレームに直結することがあります。
鉛筆硬さ試験は、塗膜の表面硬さを評価する試験方法のひとつです。JIS K 5600-5-4(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬さ(鉛筆法))として規格化されており、金属加工品・工業製品の塗膜品質管理に広く使われています。
試験の原理はシンプルで、硬さの異なる鉛筆を塗膜に押しつけて引っかき、塗膜が傷つくかどうかを目視で判定します。傷がつかない最も硬い鉛筆の硬度を「その塗膜の硬さ」として記録する方法です。
鉛筆の硬度スケールは、柔らかい方から順に「6B・5B・4B・3B・2B・B・HB・F・H・2H・3H・4H・5H・6H」の14段階で構成されます。6Bが最も柔らかく、6Hが最も硬い。この14段階の中で塗膜の耐引っかき性を評価します。
金属加工の現場では、防錆塗装・粉体塗装・焼付塗装などの品質確認にこの試験が使われます。客先の仕様書に「鉛筆硬度HB以上」などと記載されていることも多く、出荷前の品質保証書類に結果を記載するケースもあります。つまり、正確な試験方法を知らないと製品クレームや出荷停止に直結します。
| 硬度区分 | 鉛筆記号 | 主な用途イメージ |
|---|---|---|
| 軟質(6B〜B) | 6B, 5B, 4B, 3B, 2B, B | 柔らかい塗膜・厚膜評価 |
| 中質(HB〜F) | HB, F | 一般工業塗装の標準域 |
| 硬質(H〜6H) | H, 2H, 3H, 4H, 5H, 6H | 焼付塗装・粉体塗装の高硬度確認 |
参考:JIS K 5600-5-4の規格内容については日本規格協会(JSA)のデータベースで確認できます。
試験条件の設定が結果を大きく左右します。これが原則です。
JIS K 5600-5-4が定める主な試験条件は以下のとおりです。
手作業で試験を行っている現場では、荷重を「体感」で管理しているケースが少なくありません。750gはペットボトル(500ml)より少し重い程度の重さです。この感覚をつかまずに試験を続けると、毎回違う荷重で評価することになります。
荷重管理のズレは特に深刻です。荷重が50g少ないだけで鉛筆の食い込みが浅くなり、本来「H」で傷がつくはずの塗膜が「2H」まで合格と判定されることがあります。逆に荷重が重すぎると、合格品を不合格と判定してしまい、不必要な工程の手直しが発生します。
精度を確保したい場合は、ペンシルスクラッチテスター(例:東洋精機製作所製、定価目安40,000〜60,000円前後)の導入が現実的な選択肢です。この投資で試験精度が安定し、クレーム対応コストを下げられる可能性があります。これは使えそうです。
同じ試験条件で試験しているのに結果がバラつく場合、鉛筆自体の品質差が原因のひとつになっています。
JIS K 5600-5-4では「適切な硬さの鉛筆を使用する」と規定されていますが、具体的なメーカーの指定はありません。ところが、同じ「H」という表記でも、三菱鉛筆(ユニシリーズ)とステッドラー(Mars Lumograph)では芯の硬さが若干異なります。ドイツの試験機関の調査では、メーカー間で最大0.5〜1ランク相当の硬度差が生じることが報告されています。
鉛筆の削り方も重要です。芯の露出長さは5〜6mm、先端は平らに削り出す(フラット仕上げ)のが正しい準備です。丸く削ったり、露出長が2〜3mmしかない状態では接触面積が変わり、評価が変わります。
塗膜の養生期間も見落とされがちな要因です。焼付塗装であれば炉から出した直後より、24時間後のほうが塗膜硬度が安定することが多いです。常温乾燥塗料では、JIS上の乾燥条件(温度23±2℃、湿度50±5%RH)で最低7日間の養生が推奨されています。養生が不十分な塗膜を試験すると、実際より低い硬度評価になってしまいます。
養生期間が不十分なまま試験して「硬度不足」と判断し、塗り直しや配合変更をしてしまうと、材料費・工数が無駄になります。養生条件を記録する習慣が、こうした損失を防ぎます。
判定方法にも正式な手順があります。感覚でやってはいけません。
JIS K 5600-5-4の判定は「引っかき傷の有無」を目視確認することで行います。ただし「傷がある」「傷がない」の定義があいまいになりやすいため、判定精度を上げるには以下のフローを徹底することが大切です。
結果の記録は「鉛筆硬度:3H」のように硬度記号で記録するのが基本です。試験機器の種類(手作業/専用試験機)、使用鉛筆のメーカー・ロット、養生条件、試験温湿度もあわせて記録しておくと、後で再現性の確認や客先への説明がしやすくなります。
記録様式は各社で独自に作成しているケースが多いですが、ISO 15184(国際規格版の鉛筆引っかき試験)との整合性も意識しておくと、海外向け製品の品質書類作成時にスムーズです。ISO 15184とJIS K 5600-5-4はほぼ同等内容ですが、記録様式の要求事項が細かく異なる点があります。これだけは覚えておけばOKです。
JIS検索ページ(日本規格協会) – JIS K 5600シリーズの確認・購入が可能
鉛筆硬さ試験だけが塗膜硬さの評価方法ではありません。現場ではいくつかの試験方法が使われており、それぞれに適した用途があります。
バーコル硬さ試験は、専用のインデンターで塗膜・樹脂表面を押し込み、硬さを数値化する試験です。ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や厚膜塗装の評価に使われることが多く、数値が直接比較しやすいメリットがあります。ただし、薄膜塗装や下地の影響を受けやすい点が弱点です。
ビッカース硬さ試験は金属素地そのものの硬さを評価する試験であり、塗膜の硬さ評価には通常使用しません。金属加工の現場では混同されることがありますが、目的が異なります。ビッカース硬さは下地金属、鉛筆硬さ試験は塗膜の評価と覚えておけば十分です。
| 試験方法 | 主な対象 | 特徴 | JIS規格 |
|---|---|---|---|
| 鉛筆硬さ試験 | 塗膜・コーティング | 簡便・低コスト、定性的 | JIS K 5600-5-4 |
| バーコル硬さ試験 | 厚膜・樹脂 | 数値化しやすい | JIS K 7060 |
| ビッカース硬さ試験 | 金属素地 | 精密・定量的 | JIS Z 2244 |
| 鉛筆以外の引っかき試験(クロスカット) | 塗膜密着性 | 密着力の評価向き | JIS K 5600-5-6 |
鉛筆硬さ試験の最大のメリットは、試験コストの低さです。鉛筆1セット(14本)は市販品で1,000〜2,000円程度、専用試験機なしでも実施できます。その低コスト性から、金属加工の現場では最初の塗膜品質スクリーニングとして多用されています。
一方で「鉛筆硬さ試験だけで塗膜品質のすべてを評価できる」という思い込みは危険です。耐薬品性・密着性・耐衝撃性は鉛筆硬さ試験では評価できません。用途に応じてJIS K 5600シリーズの他の試験と組み合わせることが重要です。
塗膜の評価項目を体系的に管理したい場合は、塗料メーカー(日本ペイント・関西ペイント・大日本塗料など)が提供する技術資料や試験支援サービスを活用するのも選択肢のひとつです。専門の技術担当者が試験設計を手伝ってくれるケースもあり、現場の試験精度向上につながります。
日本ペイント工業用塗料サイト – 工業塗装の技術資料・塗膜試験に関する情報が参照できます