板厚が薄いほどバーリング高さを高くできると思っていませんか?実は逆で、板厚が薄いほど得られる高さは低く制限されます。
バーリング加工とは、金属板材にあらかじめ下穴を開けておき、そこにパンチを押し込んで穴の周囲を立ち上げる塑性加工の一種です。立ち上がった筒状の部分を「フランジ」と呼び、その高さがバーリング高さ(フランジ高さ)です。
この加工の最大の目的は、薄い板材に対して一定のねじ山数を確保すること、もしくはパイプや部品の貫通・嵌合部分を作ることにあります。つまり板の薄さを補う技術です。
板厚とバーリング高さには直接的な依存関係があります。バーリング加工では、フランジ部分の材料は「板材そのもの」から引き伸ばして作られます。したがって、使える材料の量は板厚に比例します。板厚が薄ければ薄いほど、引き伸ばせる材料の絶対量が少なく、得られるフランジ高さには自ずと上限があります。
つまり高さは板厚で決まります。
一般的な目安として、バーリング高さの上限は以下の式で概算できます。
ここでDはフランジ外径(バーリング内径)、dは下穴径を指します。例えばSPCC(冷間圧延鋼板)で板厚1.6mm、フランジ内径10mm程度の場合、現実的に得られるバーリング高さは4~5mm程度が一般的な上限とされています。これはM6タップのねじ山1.5山分程度の長さです。
意外ですね。板厚1.6mmというのは名刺1枚分(約0.22mm)の7倍強の厚みですが、その板から作れるフランジの高さには厳しい制約があります。
設計段階でこの上限を無視すると、加工中にフランジ部分の根元や端部に亀裂が入り、製品として使えないロスが発生します。現場では「割れが出た」という不良の多くが、この設計上の見落としに起因しています。
バーリング設計で最初に決めるべきパラメータは「下穴径」です。下穴径が適切でないと、フランジが割れるか、逆に高さが出ないかのどちらかになります。
下穴径を求める基本式は次のとおりです。
具体例で確認しましょう。板厚t=1.0mm、フランジ内径D=8.0mm、目標バーリング高さH=3.5mmで設計する場合は次のようになります。
d = 8.0 − (2 × 3.5) + (1.4 × 1.0) = 8.0 − 7.0 + 1.4 = 2.4mm
この2.4mmが適切な下穴径です。下穴が小さすぎると材料の引き伸ばし量が過剰になり、フランジ端部に亀裂が入ります。逆に下穴が大きすぎると高さが足りなくなります。下穴径が条件です。
一方、バーリング高さの上限を確認する際には「限界絞り比(バーリング比)」という指標も使います。バーリング比はB=D/dで定義されます。SPCCやSUSの一般的な延性を持つ材料では、限界バーリング比はおおよそ1.5~1.7程度とされており、これを超えると割れリスクが急上昇します。
| 材料 | 限界バーリング比(目安) | 特記事項 |
|---|---|---|
| SPCC(冷間圧延鋼板) | 1.5~1.7 | 最も標準的 |
| SUS304 | 1.4~1.6 | 加工硬化が大きく割れやすい |
| アルミA1050 | 1.6~1.8 | 延性が高め |
| アルミA5052 | 1.4~1.6 | 硬く割れやすい |
SUS304はSPCCと比べて加工硬化が著しいため、同じ設計値でも割れやすい点に注意が必要です。これは現場でよく見落とされる点です。
設計時にはこの限界バーリング比の確認を、計算式と合わせてダブルチェックとして実施するのが現場での標準的なアプローチです。これが基本です。
設計現場でよく使われる板厚ごとに、実務的な参考値をまとめます。ここに示す値はSPCC相当材、フランジ内径10mm前後を想定したものです。実際の加工条件(金型精度・潤滑・パンチ形状)によって変動しますので、あくまでも設計の出発点として活用してください。
| 板厚 t (mm) | 実用的バーリング高さ上限 (mm) | 対応可能なタップ(目安) |
|---|---|---|
| 0.8 | 2.5~3.0 | M3(ねじピッチ0.5、1山確保が限界) |
| 1.0 | 3.0~4.0 | M4程度(2山確保可能) |
| 1.2 | 3.5~4.5 | M4~M5程度 |
| 1.6 | 4.5~6.0 | M5~M6程度(3山以上確保可) |
| 2.0 | 5.5~7.0 | M6程度(設計に余裕が出る) |
| 2.3 | 6.0~8.0 | M8程度まで対応可 |
板厚0.8mmでM3タップを切る場合、バーリング後に得られるねじ山数は1山前後が限界になることがあります。M3のねじピッチは0.5mmですから、3山確保するには最低でも1.5mmの有効ねじ長さが必要です。板厚0.8mmの板材では相当ギリギリな設計です。厳しいところですね。
こうした場面では、バーリング加工だけに頼らず「ナットかしめ(プレスナット)」や「インサートナット」の採用も現実的な選択肢になります。特に薄板にしっかりとした締結力を求める用途では、バーリング+タップよりもプレスナットのほうが信頼性が高いケースがあります。これは使えそうです。
また、板厚2.0mm以上になると設計に余裕が出てきます。この厚みになると、通常の板金設計であればバーリングとタップの組み合わせで十分なねじ山数を確保できるため、コスト面でも有利です。
バーリング加工の最も多い用途は、タップを切ってねじ締結に使うことです。このとき重要な指標が「有効ねじ山数」です。
一般的にねじ締結の強度を確保するには、最低でも2山、できれば3山以上の有効ねじ山数が推奨されます。ISOや各種設計指針でも、強度締結には有効ねじ長さ=ねじ外径の0.8倍以上が目安とされています。
具体的に計算してみましょう。M5ねじ(ピッチ0.8mm)を使う場合、有効ねじ長さの目安は5mm × 0.8 = 4.0mm以上です。つまりバーリング高さは4.0mm以上必要ということになります。板厚1.6mmの板材でSPCCを使えば、バーリング高さ4.5~6.0mmが期待できるため、M5であれば十分に対応可能です。
一方、SUS304で同じ設計をしようとすると話が変わります。SUS304は加工硬化が大きく、限界バーリング比が低いため、同じ下穴径・板厚でもSPCCに比べてフランジ高さが出にくい傾向があります。材料が条件です。
バーリング後のタップ加工では、フランジの端部まで有効ねじとして使えないことも覚えておく必要があります。フランジ端部の1山程度は形状が不安定になりやすいため、設計上は「実際に確保できるねじ山数はバーリング高さ÷ピッチ−1」と考えておくと安全側の設計ができます。
この「マイナス1山」の考え方が基本です。
タップ加工自体の精度については、タップ下穴の径やタップの種類(スパイラルタップ、スレッドフォーミングタップなど)によっても品質が変わります。特にスレッドフォーミングタップ(転造タップ)は切削タップに比べて切りくずが出ず、バーリング加工後の薄いフランジ部分でも強度の高いねじ山を形成できるため、精密板金分野では広く採用されています。
バーリング設計で板厚や高さの計算には慣れていても、意外と見落とされるのがエッジ距離(端距離)と隣接バーリング間ピッチの制約です。これは検索上位の記事ではほとんど詳しく触れられていない独自の視点ですが、現場での設計トラブルの原因として実は非常に多い項目です。
エッジ距離とは、バーリング加工穴の中心から板材の端(縁)までの距離のことです。この距離が小さすぎると、バーリング加工時に板の端部が変形したり、フランジが割れたりします。一般的な設計指針では、エッジ距離はフランジ外径Dの1.5倍以上を確保することが推奨されています。
例えばフランジ外径が12mmの場合、板材端部からの距離は最低でも18mm(12 × 1.5)以上必要です。これを守らないと、板材の端部が「ペコっと」変形するトラブルが起きます。これに注意すれば大丈夫です。
隣接バーリング間のピッチについても同様です。複数のバーリング穴が近すぎると、加工時に互いの応力が干渉し、フランジが倒れたりひずんだりします。隣接バーリング間の中心距離は、フランジ外径Dの3倍以上を目安にする設計者が多いです。
これらの制約は板厚が薄いほど厳しくなります。薄板では材料の剛性が低く、隣接した加工の影響を受けやすいからです。
また、バーリング位置が折り曲げ線(ベンドライン)に近い場合も問題が出ます。一般的な目安として、バーリング穴の中心から折り曲げ線までの距離は、板厚tの4倍以上(4t以上)確保することが推奨されています。これを守らないと、折り曲げ加工時にバーリングフランジが変形したり、曲げRの部分にひびが入ったりします。
設計CADで3D確認しているときは問題なく見えても、展開図(ブランク形状)にしたときに初めてこの制約違反が発覚するケースが少なくありません。展開図チェックは必須です。
現場での対策として、CAD設計段階で展開図を必ず出力し、エッジ距離・隣接ピッチ・折り曲げ線との距離を数値で確認するフローを設計標準に組み込むことが効果的です。これを習慣化するだけで、試作時の「加工不良で作り直し」というコストを大幅に削減できます。板金部品1点の試作り直しには、材料費・加工費・工数を合わせると数千円から数万円のコストが発生することもあります。小さな確認作業が大きなロスを防ぎます。
バーリング高さと板厚の関係は材料によって大きく変わります。同じ板厚1.6mmであっても、材料が変わればバーリング高さの上限も、加工時の注意点も大きく異なります。材料選定は設計の入口です。
SPCCは最も加工性に優れ、バーリング加工の基準材料として扱われます。延性が高く、比較的深いフランジ高さを確保しやすいです。一般的な板金設計では、まずSPCCでの成立性を確認してから他の材料へ展開するアプローチが合理的です。
SUS304(オーステナイト系ステンレス)は加工硬化が著しく、同じ設計でもSPCCより割れやすいと前述しました。一方でSUS430(フェライト系ステンレス)はSUS304に比べて加工硬化が小さく、バーリング加工性はやや良好です。ステンレスを使う際はまず鋼種の確認が必要です。
アルミ合金については系統によって差が大きいです。
銅・黄銅は延性が高くバーリング加工性は比較的良好です。ただし表面の傷つきやすさや金型との摩擦に注意が必要です。
| 材料 | バーリング加工性 | 割れやすさ | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| SPCC | ◎ 非常に良好 | 低い | 特になし(標準設計でOK) |
| SUS304 | △ やや難 | 高い | 下穴大きめ、転造タップ推奨 |
| SUS430 | ○ 良好 | 中程度 | 標準設計でほぼ問題なし |
| A1050 | ◎ 良好 | 低い | 特になし |
| A5052 | △ やや難 | 中〜高 | 高さを控えめに設計 |
| 黄銅 | ○ 良好 | 低い | 金型潤滑に注意 |
材料ごとの加工性の違いを知っておくと、設計段階での材料変更や代替案の提案がスムーズになります。これは使えそうです。特に受注設計の現場では「この材料でこの高さは出ない」と早い段階でお客様に伝えることが、後工程でのトラブルを防ぐ最も効果的な方法です。
設計者として材料特性を押さえておくことは、品質コストの両面で大きなメリットにつながります。