バット溶接の電流は「高め」に設定するほど強い溶接になると思っていませんか?実は電流が高すぎると溶け落ちが起きて、引張強度が約30%低下するケースがあります。
バット溶接(突合せ溶接)は、2枚の母材を同一平面上で突き合わせて接合する溶接方法です。これが基本です。板厚が6mm以下の薄板では開先加工なしの「I形開先」でも対応できますが、6mmを超える板厚では「V形」「X形」「U形」などの開先加工が必要になります。
開先角度の目安は、V形開先の場合で60°前後が一般的です。ただし、角度が広すぎると溶接材料の消費量が増え、コストが約15〜20%余分にかかることが現場でも確認されています。逆に角度が狭すぎると溶け込み不良が起きやすくなります。つまり開先角度の選定は、品質とコストの両方に影響するということです。
開先面の仕上げ精度も重要です。グラインダーやフライスで加工した後、面の粗さが大きいと溶接時にガスが閉じ込められ、気孔(ポロシティ)が発生しやすくなります。面粗さの目安はRa 12.5μm以下が推奨されており、これはA4用紙1枚の厚さ(約0.1mm)よりも細かいレベルの精度です。
ルート間隔(ルートギャップ)の設定も見落とされがちなポイントです。板厚10mmのV形開先では、ルートギャップを約2〜3mm確保することで裏波溶接がきれいに出ます。これは爪の白い部分の幅(約2mm)をイメージすると把握しやすいでしょう。これを守るだけで裏面の品質が大きく変わります。
| 板厚 | 推奨開先形状 | 開先角度の目安 | ルートギャップ |
|---|---|---|---|
| 〜6mm | I形開先 | なし | 0〜2mm |
| 6〜20mm | V形開先 | 60°前後 | 2〜3mm |
| 20〜40mm | X形・U形開先 | 45〜60°(片側) | 2〜4mm |
開先加工は手間がかかる作業ですが、ここを丁寧に行うことが最終的な溶接品質を決定づけると言っても過言ではありません。
電流と電圧の設定は、バット溶接の品質を左右する最も重要なパラメータのひとつです。これが基本です。電流値が低すぎると溶け込みが浅くなり、融合不良(アンダーカット)が生じます。一方で高すぎると溶け落ちや変形の原因になります。
被覆アーク溶接(SMAW)でφ3.2mmの溶接棒を使用する場合、板厚10mmのバット溶接では概ね110〜140Aが適正範囲とされています。同じ板厚でもルート面の大きさや開先形状によって最適電流は変わるため、試験溶接(テストピース)で確認するのが確実です。これは手間ですが省いてはいけません。
電圧はアーク長と密接に関係しています。アーク長が長くなるとアーク電圧が上がり、ビード幅が広がってスパッタも増えます。溶接棒径とほぼ同じアーク長(φ3.2mmなら約3mm)を保つのが理想で、これは1円玉の厚さ(約1.7mm)の約2倍程度のイメージです。一定のアーク長を維持できているかが溶接士の技術を示す尺度にもなります。
MAG溶接・MIG溶接では、ワイヤ送給速度と電流の関係が特に重要です。送給速度を上げると電流が上がり、溶け込みが深くなります。ただし、シールドガス(CO₂やArと CO₂の混合ガス)の流量が適切でないと、外気の影響を受けてブローホールが発生します。ガス流量の目安は15〜20L/minが一般的です。これだけ覚えておけばOKです。
溶け込み深さを確認する手段として、現場では断面マクロ試験(断面を切り出して腐食させて確認する方法)が使われます。JIS Z 3104などの規格に基づく試験方法で、溶け込み不良・気孔・割れの有無を目視で確認できます。設備導入時や新規作業者の教育時には必ず実施することを推奨します。
溶接前の母材表面の清浄度は、気孔・割れ・融合不良を防ぐうえで見逃せないポイントです。油脂・錆・塗料・水分が残っていると、溶融池に水素が混入しやすくなります。水素は溶融金属が凝固するときに閉じ込められ、溶接割れ(低温割れ)の直接原因となります。
特に危険なのが水分です。母材に付着した水分がわずか0.1ml程度であっても、溶融池内でブローホールを複数発生させることが確認されています。これは意外ですね。清浄化の基本手順としては、脱脂(アセトンやラッカーシンナーで拭き取り)→ワイヤーブラシまたはグラインダーによる酸化被膜の除去→乾燥の順が推奨されます。
低水素系溶接棒(例:JIS規格 E4316など)を使用する場合は、乾燥管理も重要です。吸湿した低水素系溶接棒を使用すると、溶接金属中の拡散性水素量が急増し、割れ感受性が高まります。乾燥条件は300〜400℃で30〜60分が目安で、乾燥後は保温筒(乾燥保管ケース)に入れて使用します。乾燥管理が条件です。
母材の材質によっても清浄化の方法は変わります。ステンレス鋼の場合、鉄製のブラシで研磨すると鉄粉が表面に残り、腐食の原因になるため専用のステンレス用ワイヤーブラシを使う必要があります。アルミニウムは表面の酸化膜(Al₂O₃)が非常に硬く、TIG溶接ではAC電源によるクリーニング作用を活用することが基本となります。
下処理を怠ったことによる手直し(補修溶接)は、初回の溶接より工数が1.5〜2倍かかるとも言われています。痛いですね。清浄化にかける15〜20分の手間が、後工程での大きなロスを防ぐことにつながります。
バット溶接では、入熱量が多くなるほど溶接部周辺の熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)が広がり、母材の組織変化や軟化・硬化が起きやすくなります。熱管理が原則です。特に高張力鋼(ハイテン材)では、溶接後に硬化組織(マルテンサイト)が生成されやすく、これが遅れ割れの原因になります。
変形防止の基本は「拘束」と「逆変形」の組み合わせです。拘束治具(クランプ・バックバー)で母材を固定したうえで、あらかじめ変形方向とは逆向きにわずかに角度をつけておく(逆変形法)と、溶接後に熱収縮で元の形状に戻りやすくなります。これは使えそうです。
パス間温度の管理も見落とされがちです。多層盛り溶接では、前のパスが高温のまま次のパスを溶接するとオーバーヒートになり、溶接金属の靱性が低下します。パス間温度の上限はJIS規格でも材質ごとに規定されており、炭素鋼では250℃以下、低合金鋼ではさらに低い温度(150℃以下など)が求められることもあります。これは手の甲を近づけて「熱い」と感じる温度(約50〜60℃)の4〜5倍を大幅に超えるレベルで管理が必要です。
予熱(プレヒート)は、硬化しやすい材質や板厚が大きい場合に有効な対策です。炭素当量(Ceq)が0.45%を超える鋼材では予熱が推奨され、温度は100〜200℃程度が一般的です。予熱不足のまま溶接すると、冷却速度が速くなりすぎて割れリスクが高まります。予熱は手間がかかりますが、後からの割れ補修や部品交換のコスト(場合によっては数万円規模)と比べれば明らかに割に合います。
入熱量の計算式は以下のとおりです。現場で記録・管理しておくと、品質トレーサビリティにも役立ちます。
$$Q = \frac{V \times I \times 60}{S \times 1000} \text{(kJ/mm)}$$
(Q:入熱量、V:電圧V、I:電流A、S:溶接速度mm/min)
この数値を記録しておくことで、再現性のある溶接条件の管理が可能になります。
溶接後の品質検査は、外観検査だけでは不十分な場合がほとんどです。表面から見えない内部欠陥を見逃すと、使用中に破断事故に至るリスクがあります。内部欠陥の検出には、超音波探傷試験(UT)や放射線透過試験(RT)が広く使われています。UTは装置が比較的コンパクトで現場持込も可能なため、現場検査では主流の方法です。
代表的な溶接欠陥とその対策をまとめると以下のようになります。
外観検査の合否判定基準は、JIS Z 3104やJIS Z 3060などの規格を参照するのが基本です。ビード幅・余盛高さ・アンダーカットの深さなどに規定値があり、発注仕様書にも明記されることが多いです。規格を知ることが条件です。
補修溶接(リペア溶接)を行う場合は、欠陥部をグラインダーや炭素アーク気割(ガウジング)で完全に除去してから再溶接します。欠陥を残したまま上から溶接すると、欠陥が埋まらずに内部に閉じ込められてしまいます。これは発注先への納品後に発覚すると、製品回収や損害賠償に発展するリスクもある重大な問題です。リペア前の確実な欠陥除去が原則です。
溶接品質の管理体制を整えるうえでは、WPS(溶接施工要領書)とPQR(施工試験記録)を整備することが重要です。これはISO 15614やJIS規格に基づく文書で、溶接条件の再現性と品質保証の証拠になります。客先や第三者機関の監査でも求められることが多いため、日頃から整備しておく習慣が現場全体の信頼性向上につながります。
溶接品質検査の規格について詳しくは、日本溶接協会のウェブサイトが参考になります。JIS規格の解説や溶接技術者向けの情報が整理されています。
溶接士技量試験(JIS Z 3801など)の概要や受験案内についても同サイトから確認できます。バット溶接の技量資格を取得することで、現場での信頼性と受注できる仕事の幅が広がります。資格取得は長期的なキャリア形成においても有益な投資です。