アンダーカットを無視した義歯は、装着した翌日に外れます。
「アンダーカット」は、もともと歯科専用の用語ではありません。「くびれ」「出っ張りの下の凹み」を指す一般語で、加工業や機械工学でも広く使われています。 www2.ha-channel-88(https://www2.ha-channel-88.com/soudann/soudann-00029079.html)
歯科でいうアンダーカットとは、歯の最大豊隆部(一番膨らんでいる部分)よりも下方にある、凹んで細くなった領域のことです。 壺を横から見たとき、一番太いところから下がすぼまっている部分をイメージするとわかりやすいです。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/38952)
この形状は、天然歯に自然に存在するほか、虫歯(う蝕)や楔状欠損(WSD)によって後天的に生じることもあります。 リフォームで壁に下地を塗ったとき、下地の厚みが部分的に偏ってくぼみができるイメージに近いです。それが後の仕上げを左右するのと同じように、アンダーカットは補綴(ほてつ)の精度を大きく左右します。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/38952)
アンダーカット域がある歯に義歯のクラスプ(バネ)を引っかけることで、義歯に「維持力」が生まれます。 維持力とは、義歯が外れにくくなる力のことです。これが基本です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/terminology_clinical/25730)
アンダーカットは使われる場面によって、3つの文脈で分類されます。
まず義歯設計における分類です。 oralstudio(https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/1586)
- アンダーカット域(undercut area / infrabulge area):サベイラインより歯頸側(歯肉に近い側)の凹んだ領域
- 非アンダーカット域(nonundercut area / suprabulge area):サベイラインより咬合面側(噛む面に近い側)の膨らんだ領域
サベイラインとは、歯や顎堤(がくてい:歯が抜けたあとの骨の土台)の模型に、サベイヤーという計測器具で描く「境界線」です。 この線を境に、クラスプをどの深さまで入れるかを決定します。 oralstudio(https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/1586)
- 望ましいアンダーカット:クラスプの維持に積極的に活用できる凹み
- 望ましくないアンダーカット:義歯の装着を妨げ、適合不良や着脱困難を引き起こす凹み
たとえば、無歯顎堤(歯が1本もない顎)のアンダーカットは義歯の装着を妨げる代表例です。 逆に、歯冠の最大豊隆直下のアンダーカットはクラスプの維持に活用されます。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/terminology_clinical/25730)
3つめは窩洞(かどう)におけるアンダーカットです。 虫歯を削ったあとの穴(窩洞)がアンダーカットを持っていると、印象材(型取り材料)を取り出すときに引っかかってちぎれたり、TEK(テック:仮歯)が外れにくくなる弊害が生じます。これが条件です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/38952)
クラスプとは、パーシャルデンチャー(部分義歯)を支台歯に固定するためのバネ状の金属部品です。このクラスプがアンダーカット域に入り込むことで、義歯に「外れにくさ」が生まれます。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/terminology_clinical/25730)
アンダーカット量の目安は、使用する金属合金の種類によって異なります。コバルトクロム合金の場合、環状型クラスプの維持腕が入り込むアンダーカット量は0.25〜0.50mmが標準とされています。 これはちょうど名刺1枚の厚さ(約0.25mm)から2枚分(約0.50mm)の深さです。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s3/BK07141.pdf)
意外ですね。わずか0.25mmの差が、義歯の着脱感を根本から変えることになります。
クラスプの設計では、頬側アームだけでなく舌側アームもアンダーカットに少し入れることで、転覆防止効果が高まります。 転覆とは義歯が斜めにひっくり返ることで、片側だけのクラスプ設計ではこのリスクが上がります。 g-rex.co(https://g-rex.co.jp/blog/531/)
アンダーカットが全くない歯を支台歯にしなければならない場合、ガイドプレーンと呼ばれる平行な平面を歯面に形成することで義歯の着脱方向を誘導し、間接的に維持を確保する方法もあります。 着脱方向を固定することで、ほんの少しの摩擦抵抗だけで義歯が安定するよう設計するのです。これは使えそうです。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK08638/pageindices/index4.html)
実際の義歯設計では、サベイヤーという専用の計測器で模型を分析することが不可欠です。 sasaki-dentalcl(https://sasaki-dentalcl.com/one-point-lesson)
サベイヤーは模型に計測棒を当てながら傾けることで、着脱方向に対して最もバランスのよいアンダーカットの位置と量を可視化します。模型を傾ける角度を変えると、クラスプが入り込めるアンダーカット域の場所や量が変わるため、最良の着脱方向を決定することが設計の第一歩になります。
IBA義歯設計装置のように、角度でアンダーカットをとらえるサベイヤーも開発されており、遊離端欠損など複雑な症例でも最善の部位にアンダーカットを設定できるようになっています。 academy.doctorbook(https://academy.doctorbook.jp/movies/1003487)
特に注意が必要なのが、最後方支台歯が近心傾斜しているケースです。 このような場合は回転装着という方法が有効で、義歯を前方から回転させるように装着することで、単純な着脱方向では対応できないアンダーカット条件をクリアします。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK08638/pageindices/index4.html)
| 着脱方法 | 特徴 | 適応するケース |
|---|---|---|
| 通常着脱 | 一方向に挿入・撤去 | アンダーカットが均等にある場合 |
| 回転装着 | 前方から回転させるように装着 | 2歯以上の中間欠損、最後方歯が傾斜 |
| ガイドプレーン誘導 | 平行面でガイドしながら装着 | アンダーカットが不足している場合 |
回転装着では、欠損側のアンダーカットを利用するクラスプは「維持腕」ではなく、変形しにくい「把持腕」を選ぶことが推奨されています。 維持腕は弾性変形を繰り返すので、回転装着の繰り返しに耐えられないリスクがあるためです。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK08638/pageindices/index4.html)
アンダーカットの管理を誤ると、患者さんに直接的なデメリットが生じます。ここが最も重要なポイントです。
過大なアンダーカットがある場合、義歯の装着が困難になるか、無理に装着しようとするとクラスプが変形・破折します。 またアライナー(マウスピース型矯正装置)でも、望ましくない過大アンダーカットは適合不良の直接原因になります。 ortc(https://ortc.jp/glossary/glossary-jpa/glossary-902)
アンダーカットが全くない場合は、クラスプの維持力が得られず義歯が外れやすくなります。つまり補綴維持力が低下します。 ortc(https://ortc.jp/glossary/glossary-jpa/glossary-902)
歯頸部に楔状欠損や虫歯があって窩洞アンダーカットが生じている場合は、義歯を製作する前にレジン充填で平坦化しておくことが必要です。 この前処置を怠ると、どんなに精密な設計をしても義歯がうまく適合しません。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK08638/pageindices/index4.html)
虫歯や楔状欠損によって生じたアンダーカットは、TEK(仮歯)が除去しにくくなるだけでなく、清掃性も落ちるという二重のリスクを持ちます。 清掃不良は二次カリエス(再び虫歯になること)につながります。これは痛いですね。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/38952)
アンダーカットを活用した維持は、金属クラスプだけに限りません。補綴の現場では様々な選択肢があります。
アタッチメント義歯は、歯根や残存歯に精密な金属パーツを組み込み、機械的なはめ込みで義歯を固定する方法です。アンダーカットを人工的に作り出す発想に近く、維持力・審美性ともにクラスプより優れる場合があります。
ウイングロックデンチャーという設計では、義歯を分割して口腔内で組み立て・分解する仕組みを採用します。 この義歯ではウイングを開閉して維持を確保するため、アンダーカットの制約がほとんどありません。複雑なアンダーカット条件でも対応できるのがメリットです。 academy.doctorbook(https://academy.doctorbook.jp/movies/1003487)
レジリエンツテレスコープでは、顎堤(歯が抜けた後の骨の部分)のアンダーカットも義歯床で被覆して辺縁封鎖を行います。 骨隆起(こつりゅうき:骨が内側に出っ張った状態)がある場合も、事前に外科的切除を行わずに対応できるケースがあります。 ipsg.ne(https://ipsg.ne.jp/q-and-a/resilienz-undercut-qa/)
どの補綴方法を選ぶかは、残存歯の本数・アンダーカットの量・患者さんの清掃能力・費用など複合的な要因で決まります。口腔内の状態を精密に分析し、サベイヤーでアンダーカットを数値化してから設計を進めることが、長持ちする義歯を作る第一歩です。歯科医師と歯科技工士の連携が欠かせません。
参考:アンダーカットの専門的定義と臨床分類(クインテッセンス出版 歯科辞典)
https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/38952
クラスプのアンダーカット確認法と義歯設計の実例(佐々木純二のワンポイントレッスン)
https://sasaki-dentalcl.com/one-point-lesson
アライナーにおける望ましいアンダーカットと望ましくないアンダーカットの解説(ClearCorrect サポート)